昭和電工と産業技術総合研究所(産総研)は6月3日、導電性接着剤として優れた長期絶縁信頼性を発揮する塩素フリーのエポキシ化合物を開発したと発表した。
機能性化学品製造プロセスの中でも、酸化プロセスはコア技術として重要だが、重金属酸化剤や有機過酸化物などの酸化剤を用いた従来の酸化プロセスでは、原料や酸化剤由来の副生成物が大量に発生するという環境上の問題があり、環境に対する負荷が低く、かつ高効率に高性能な化学品を製造できる酸化プロセスが望まれていた。そこで、酸化力が弱いため触媒による活性化が必要なものの、比較的安価で発生する副生成物が水のみという強みを持つ、過酸化水素を酸化剤とする酸化プロセスが着目されていた。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2008年9月から経済産業省が開始した「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/革新的酸化プロセス基盤技術開発」プロジェクトを、2009年4月~2012年3月に継続実施した。このNEDO委託事業により、産総研、昭和電工、電気化学工業、荒川化学工業、JNCで構成される研究グループが、過酸化水素を酸化剤としたクリーン酸化プロセスの研究開発を行った。
産総研に設置された共同で研究開発を行う集中研では、「三元系触媒」をベースに様々な性質の基質へ適用できる酸化技術開発を行い、電子材料としての需要があるエポキシ化技術を中心に、過酸化水素酸化技術を体系化・融合化した。この技術によって得られた化合物は、すべて従来品を上回る高純度品であり、高選択合成、塩素フリー、高効率触媒除去などは、同プロジェクトオリジナルの成果だという。
一方で、加水分解しやすい多官能基質に代表される、高難度かつ産業上必要な基質の中には、2011年度までに開発した技術では適用が困難な基質もあり、また、電子材料を構成するエポキシ化合物もさらなる高性能・高機能化が求められていたことから、NEDOは2012年度に追加的に研究開発を実施することとし、昭和電工と産総研が、継続して研究を行ってきた。
同プロジェクトにおいては、従来知られているエポキシ化合物よりも低粘度で、銀粒子との親和性も高いエポキシ化合物として、3カ所以上のグリシジルエーテル構造を同一分子内に有する化合物(多官能グリシジルエーテル)に着目。グリシジルエーテルは、アリルエーテルの酸化反応により製造できるが、グリシジルエーテル構造が増えるにつれて加水分解を起こしやすくなるため、多官能グリシジルエーテルの合成は難易度が高まる。しかし、従来の触媒では、目的とする多官能グリシジルエーテルをほとんど得ることができなかった。
この課題を解決するために産総研にて検討が行われた結果、これまで塩素フリーエポキシ化に用いてきたタングステン触媒-リン系添加剤-アミン系添加剤に、さらに2種類の固体触媒を混合した触媒を使用すると、高効率に多官能グリシジルエーテルを合成できることを見いだしたという。この、過酸化水素を利用したクリーンな酸化プロセスを利用して得られる多官能グリシジルエーテルは、不純物として塩素系化合物を含んでいない。また、この製造方法は、触媒によって直接的に過酸化水素酸化を行うため、有機溶媒などの有機化合物を使用する必要がないので、クリーンで低コストのプロセスとして優位性があるという。
一方、昭和電工は、塩素フリーの多官能グリシジルエーテルを接着性樹脂として配合を最適化することで、これまで課題とされてきた塩素系化合物の存在による製品の性能低下の防止が可能な導電性接着剤を開発した。
同プロジェクトにおいて開発した、多官能アリルエーテルなどの多官能性原材料の高効率酸化により製造されたエポキシ化合物は、塩素を使用しない製造法により作られているので、不純物として塩素系化合物が含まれることがない。このため、今回開発したエポキシ化合物を用いた導電性接着剤は、従来問題となっていた銀のマイグレーションが起きにくく、配線とデバイスの接合信頼性を高めるのに極めて有用で、低耐熱基材の使用を可能にし、デバイスへの熱負荷も低減するものとなっている。
今回開発されたエポキシ化合物は、導電性接着剤のような金属や無機フィラーを高充填する必要がある用途への使用適性が高いため、今後、さらに高伝熱材料や封止材への適用も期待されると研究グループでは説明しており、今後、昭和電工が子会社の昭光通商を通じて導電性接着剤のサンプル出荷を開始するとしている。