岡山大学は5月30日、これまでカテーテル治療が難しいとされていた、複数個の穴があいている「心房中隔欠損症」の患者に対し、新しい3次元超音波診断法を用いて安全・確実に、そしてより患者の負担を少なく治療できることを報告したと発表した。
成果は、岡山大病院 循環器疾患集中治療部の谷口学医師(現・福山循環器病院)、同・赤木禎治准教授、同・大学院 医歯薬学総合研究科の佐野俊二教授らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、4月23日付けで北米心血管イメージング学会雑誌「The International Journal of Cardiovascular Imaging」オンライン版に掲載された。
心房中隔欠損症は出生1500人に1人くらいに発見され、心不全や脳梗塞につながる不整脈などを起こす可能性がある先天性の心臓病だ。子供の内は比較的症状に乏しく、大人になって初めて発見されることも稀ではない。成人で診断される先天性心疾患の半数は、心房中隔欠損症といわれているほどだ。その治療はこれまで開胸手術で行われていたが、最近では技術が進み、直径3mm程度の細い管(カテーテル)を使って、胸を開けずに穴を閉鎖する、患者への負担を減らせる手法が可能となってきた。
しかし、欠損孔の大きさや形は1人ひとり異なっていて、中には心房に穴が複数個開いている「多孔型」と呼ばれる患者も9%くらい存在することがわかってきた次第だ。このような多孔型の患者のカテーテル治療は、穴がどこに開いているか、それぞれの穴がどのような位置関係になっているか診断することが難しく、カテーテル治療をあきらめ開胸手術を選択することもしばしばあったのである。
そこで研究チームは、胃カメラのような特殊な管を食道に入れる「経食道心エコー図」と最新の3次元画像処理技術を用いて、多孔型心房中隔欠損症の画像診断を短時間に行い、心臓の内部の様子を正確に表示することに成功した(画像1・2)。この3次元画像を用いると、どの穴をどのくらいの大きさの閉鎖栓で閉じればよいか、正確に診断することが容易になり、96%の症例で閉鎖術が成功したのである。
画像1。閉鎖前のエコー |
画像2。閉鎖後をエコーで確認したところ |
この新しい3次元超音波診断技術を取り入れることにより、複雑な形態を持つ心房中隔欠損症においても胸を開くことなく、より安全・確実に、そして患者への負担を少なく治療できることが期待されるとしている。