大阪大学(阪大)は5月14日、多くの自己免疫疾患の発症機構解明につながる分子「Arid5a」を発見したと発表した。
成果は、阪大 免疫学フロンティア研究センター(WPI-IFReC)の増田和哉研究員(日本学術振興会)、同・岸本忠三教授(元・大阪大学総長)らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月13日付けで米国科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。
関節リウマチをはじめとする多くの自己免疫疾患では、患者の血液中に炎症性サイトカイン「IL-6」の顕著な増加(異常産生)が認められる。IL-6受容体に対する抗体「トシリズマブ」は薬品としてとして現在世界90カ国以上で承認され、治療に効果を発揮している。この抗体はIL-6の信号をブロックすることにより、関節リウマチをはじめとする多くの疾患の治療に画期的な効果が発揮される仕組みだ。
そこで研究チームは今回、自己免疫疾患の原因の「IL-6の異常産生」の原因を究明すべく研究を進めた。まず研究チームが発見したのは、IL-6mRNAの3'非翻訳領域に特異的に結合し、このmRNAの分解を防ぐ分子「Arid5a」の存在である。この分子はIL-6の産生を誘導するシグナルにより同時に誘導され、IL-6mRNAが長時間にわたり安定的に存在し、IL-6の異常産生に関わることが証明された。
Arid5aを欠損させたマウスではエンドトキシンの投与を行ってもIL-6の異常産生とエンドトキシンショックが起こらないこと、また多発性硬化症のマウスモデルにおいてはその発症が抑えられることが判明。Arid5aはIL-6mRNAの3'非翻訳領域で、IL-6mRNAを特異的に破壊する分子「Regnase-1」の作用を拮抗的に阻害することが証明されたのである。
正常状態ではIL-6は作られてもすぐに消し去られることが必要であり、Regnase-1はその役割を果たしている。しかし、今回発見されたArid5aはこのRegnase-1の作用を阻害し、IL-6の異常産生、そして病気の発症につながる可能性が考えられるという。
この分子の産生を抑える化合物、あるいはこの分子がIL-6mRNAに結合することを防ぐ化合物の開発は、IL-6異常産生に起因する炎症性自己免疫疾患の新たなる治療薬の開発につながるだろうとしている。