岡山大学は5月23日、岡山市の鹿田遺跡で奈良時代末(8世紀後半)の井戸から2枚の絵馬が出土したことを発表した。
同大埋蔵文化財調査研究センターが2012年11月~2013年4月にかけて同大 鹿田キャンパスで行った発掘調査によるもので、井戸に入れられた井筒の中から発見され。これは、奈良時代のものとしては瀬戸内で初めてみつかった絵馬になるという。
それぞれの絵馬には馬と牛が一頭ずつ描かれており、牛は背中に荷物を背負った姿で描かれており、馬には鞍や鐙などの表現があり、馬を曳く猿の姿も確認されたという。奈良時代の絵馬は都があった近畿地方から東に集中しているが、そのほとんどが馬を1匹描くもので、今回みつかった馬の絵馬のような猿が手綱を曳く姿が描かれたものは初めてだという。また、牛が描かれた絵馬は可能性のあるものを含めて3点出土しているが、今回のものは牛の絵馬としては最古のものになるとする。
このほか、井戸からは他に赤く塗られた土師器の器が正位置で置かれていたことから、研究グループではあわせて井戸を埋める際の祭祀的な行為があったと思われると説明している。
馬の絵馬のサイズは23cm×12cmの長方形で、上部に1カ所穴が開けられていた。本来、墨で描かれていたが、現状では失われてしまっており、墨の部分だけ表面が保存され、周囲より少し浮き出した状態になっていることが確認されたという。馬は体を左向きにして、頭から尻尾まで体のラインが滑らかに描かれており、背中には鞍が載せられ、体の側面には鐙などの装具も表現されていることが見てとれたほか、馬の口元から下に延びる手綱を曳く猿の姿も見られており、研究グループでは、古くから猿は馬を守る動物と考えられており、今回の発見で馬と猿の関係が奈良時代までさかのぼる可能性がでてきたとする。
一方の牛の絵馬のサイズは21.5cm×12.3cmの長方形で、こちらも上部に穴が1カ所開けられていたという。牛も墨で描かれており、体は左向きで、体の特徴を細分までよくみることができる状態にあり、体には都の牛車を曳く牛のような飾り帯が赤い彩色で表現されていることが見て取れることから、今後、科学的な分析を進めることで、絵馬の構図の解明を進めていきたいと研究グループではコメントしているほか、絵馬は古くから現在に至るまで神社などに奉納され、平安時代の絵巻にもその風景が描かれていることから、今回発見された資料から奈良時代の人々の願いや信仰、習俗について研究が進むことが期待されるとしている。