京都大学は5月20日、日立造船との共同研究によって開発された、津波や高潮、洪水そのものの浸水による浮力を駆動力として利用して浸水を防ぐという、新しい作動原理の津波対策設備「無動力かつ人的操作が不要な陸上設置型フラップゲート(防水設備)」が、実用化されることになったと発表した。
成果は、京大 防災研究所の間瀬肇教授、同 安田誠宏助教、日立造船の仲保京一氏らの共同研究チームによるものだ。
東日本大震災では、多くの水門や「陸閘」が停電で遠隔操作できない状況となり、手動によるゲート閉鎖作業に従事した消防団員の方々が数多く被災してしまった経緯がある。なお陸閘とは、堤防などの海側にある施設(漁港、港湾、砂浜)を利用するために、車両や人の通行ができるように途切れさせてある開口部を、津波や高潮などの増水時に、その開口部を塞いで浸水を防ぐ役割を果たす門扉のことだ。
よって、これからの津波対策設備はソフト対策を妨げるものであってはならないという。しかし、遠隔操作装置をすべての陸閘に備えることは現実的には難しい。もちろん、常時閉鎖した状態で陸閘を運用するというのも、日常生活において多大な負担を強いることになるため論外である。
今回開発された陸上設置型フラップゲートは、「扉体」、「側部戸当り」および床板を主要な部材として構成される可動式の防潮設備であり、陸閘門あるいは防水扉などとしての使用を想定して開発されたシステムだ。同設備は、通信装置や駆動装置、動力装置など、電気系の装置類を一切備えておらず、浸水時に生じる浮力のみを利用して津波進入路を閉鎖することができる点が大きな特徴となっている(画像1)。
可動部である扉体は、通常、倒れ伏した状態で津波の進入路を横断するよう設置され、浸水によって扉体自体に生じる浮力を利用して、底部回転軸を中心として旋回起立することで連続した防潮壁を形成する仕組みだ。画像2が、同設備の設置イメージである。
従来型の代表的な防潮設備としては、画像3に示されているような横引きゲートがあるが、駆動装置類を備えたこうした防潮設備は、本来、高潮対策用だ。そのため、地震直後において、設備を作動させるための各種装置の確実な作動を担保することは困難である。浸水による浮力を利用して扉体を作動させる今回の設備であれば、故障・停電の懸念を伴う装置類を使用することなく、確実に開口部を閉鎖することができ、より被害を減らすことができるというわけだ。
同設備は平成25年3月に国がまとめた「水門・陸閘などの整備・管理のあり方(提言)」の中でも、今後の活用が期待されている設備となっており、浸水による浮力のみで扉体閉鎖を実現している以外にも、2つほど特徴がある。その1つが、無人での作動を実現するため、周囲の人に危害を加えないよう扉体の急激な動作防止を実現していることだ。そしてもう1つが、車両の通過に十分耐えうる強度を確保しながら、小さな浸水で扉体がただちに浮上を開始する仕組みである。
また効果としては、以下の5点が挙げられている。(1)人為的な操作を必要とせず、操作者が危険にさらされることがない。(2)故障のリスクを有する装置類を備えておらず、確実な作動が期待できる。(3)短時間の間に到達する津波にも操作遅れが生じない。(4)津波の到達直前まで避難路としての使用が可能。(5)従来設備と比較して安価で、かつメンテナンスが容易なため、地域のさまざまな要求に対応できる。
同設備は津波対策設備として以外にも、近年、増加傾向にある都市水害など、さまざまな水害への対策設備(洪水、高潮、避難ビルや地下街の出入口など)として利用可能だ。