岡山大学は5月13日、植物の光合成において太陽光を利用した水分解・酸素発生反応におけるカルシウムイオンの役割を、タンパク質の立体構造解析により突き止めたと発表した。

成果は、岡山大大学院 自然科学研究科 光合成研究センターの沈建仁 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、3月5日付けで米国科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

光合成の水分解・酸素発生反応は、太陽の光エネルギーを高効率で生物が利用可能な化学エネルギーに変換すると共に、水を分解し、生物の生存に必要な酸素(と水素イオン)を作り出している。植物や藻類による光合成反応は、クリーンで安価な太陽光エネルギーの高効率利用につながるとして長らく注目されてきた。

水分解の触媒中心には、マンガンとカルシウムイオンが含まれていることがこれまでの研究から判明していたが、カルシウムイオンの役割はわかっていなかった。つまり、光合成において最初に起こる水分解・酸素発生反応の詳細な機構はまだ解明されていないということだ。

今回、沈教授らは、カルシウムイオンの代わりに元素番号38の「ストロンチウムイオン(Sr)」の存在下で生育させた酸素発生型光合成生物ラン藻から、膜タンパク質複合体「光化学系II」を単離・結晶化し、理化学研究所の所有する大型放射光施設「SPring-8」の放射光を利用して構造解析を行った。なお、水分解を触媒している光化学系II複合体の立体構造については、沈教授らが2011年に世界最高解像度で解析に成功している。

その結果、水分解触媒中心に存在していたカルシウムイオンがストロンチウムイオンに置き換わり、触媒の構造がわずかに変化。この構造変化の主な原因は、触媒に結合していた水分子の1つが移動したことであり、このことから、この水分子が酸素発生反応に関わっていることを明らかにした次第だ。

今回の成果は、光合成水分解反応機構の完全解明につながる大きな1歩だ。光合成水分解反応機構を完全解明できれば、クリーンエネルギー源としての太陽光を高効率に利用するための人工光合成が可能になることから、大きく期待されている。