卵子に体細胞の核を移植して培養する「クローン技術」を使い、体のさまざまな組織や臓器になるES細胞(胚性幹細胞)を作ることに、米オレゴン健康科学大学のシュークラト・ミタリポフ(Shoukhrat Mitalipov)教授や立花真仁(まさひと)研究員らのチームが世界で初めて成功した。米科学誌「セル(Cell)」に15日発表した。
研究チームは学内倫理委員会の審査を得た上で卵子提供者を募り、さまざまな検診・検査に最終パスした米国内の23-31歳の女性9人から提供を受けた。実験では計122個の卵子を使い、それぞれの核を取り除いて別人の皮膚細胞の核を移植し、培養した。その結果、21個をこれまで難しかった「胚盤胞(はいばんほう)期」と呼ばれる段階にまで成長させることができ、その組織の一部を培養すると6個がES細胞になった。それをさらに、心筋の細胞にまで成長させることができたという。
クローン技術を使ったES細胞の研究は、10年ほど前までは再生医療の有力な技術と注目された。2004年には韓国ソウル大の黄禹錫(ファンウソク) 教授(当時)が、この技術でヒトES細胞の作製に成功したと捏造(ねつぞう)論文を発表するまでに加熱した。しかし06-07年に京都大学の山中伸弥教授が、卵子を使わずに、ヒトの体細胞だけを使う「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」を開発したことで、研究は下火になっていた。ミタリポフ教授らは07年にサルのクローンES細胞の作成に成功しており、今回はその技術を発展させたという。
再生医療の可能性を広げる成果として注目されるが、今回作製したヒト胚盤胞を子宮に戻せば“クローン人間”が生まれる可能性がある。そのため日本でも法律で、クローン技術によるヒト個体の複製や、ヒトクローン胚の胎内移植などを禁止している。ヒトES細胞の作製については、文部科学省指針で難病治療などの研究目的に限定している。
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