NHKは5月9日、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 篠田研究室との共同研究により、視覚障害者に情報を伝達する手段として、指や手で触れた時と同様の感覚を再現できる「触力覚提示装置」を開発したと発表した。

今回の成果は、5月30日(木)から6月2日(日)まで開催される「技術公開2013」で披露される予定だ。

NHKでは、高齢者やさまざまな障害者にもわかりやすく情報を伝えるため、「人にやさしい」放送技術の研究が進められている。今回の触力覚提示装置も、そうした研究の一環として開発された形だ。触力覚提示装置は、手や指先が物に触れた時に生じる力を「力覚デバイス」によって提示し、あたかも底に物体があるかのように仮想的に再現できる、いわばバーチャルリアリティ系に含まれる技術の1つだ。

力覚デバイスは、指先や手に持ったペン先などに対し、その位置に応じてモータなどによる制御を行い、押し返す力を発生させることで、指先などに伝わる力を模擬することが可能なデバイスである。

これまでは、指先の1点に力を発生させる方式が用いられていたが、物の角張った部分などを提示する場合、力のかかった指先が仮想物体から外れやすく、物の形状を把握することが困難だった。そこで今回は、指先に配置した直径4mmの刺激点5つに独立した力を加え、それぞれの強さを3次元で制御することが可能な新しい方式を開発。物に触れた時の皮膚の変形を伴う感覚を再現することが可能となり、稜線や頂点を感じながら輪郭に沿った触り方ができることから、「物の輪郭をなぞる感覚」の再現が可能となり、物の形状をより明確に識別できるようになったというわけだ。

5つの刺激点のそれぞれが、(1)空間位置の取得、(2)仮想物体との接触状態の判定、(3)反発などの力の提示というステップを1000分の1秒ごとに繰り返すことで、物を触った感覚を安定して得られる仕組みになっている。なお、刺激点が3点以上あると、仮想物体から指が外れそうな角を表現することが可能だという。また、指全体にはX、Y、Zの3方向の並進力に加えて、その3軸それぞれに回転力(ロール、ピッチ、ヨー)も提示することが可能で、面のわかりやすさも向上させたとしている。ちなみに指全体の自由度は6で、最大提示力は42.5Nとなっている。

今後は、指の可動範囲を拡げることで、直線的な輪郭だけでなく、曲面なども再現できるようさらなる向上を目指していくとしている。

画像1。今回開発された触力覚提示装置の外観