九州大学(九大)は、高分子酸でコートした加湿無しで駆動する新しいタイプの高温固体高分子形燃料電池(PEFC)を開発し、これが高耐久性を示すことを見出したと発表した。
成果は、同大 大学院工学研究院 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)/大学院工学研究院 中嶋直敏教授、藤ヶ谷剛彦准教授、I2CNER Mohamed R. Berber特任助教(博士研究員)らによるもの。詳細は、英国科学誌「Nature」の姉妹誌であるオンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。
燃料電池は2枚の電極の間を隔てる高分子膜(電解質膜)に水素イオンを流すことで発電が行われており、この水素イオンの流し方によって燃料電池システム全体の構成が変わってくる。すでに市販されている燃料電池においては、高分子膜に水を含ませることで水素イオンを運んでいるため、加湿器が必要となる。さらに、水が沸騰する100℃以上では使用できないため冷却器も必要であり、装置コストの問題や水分管理の問題があった。
もし100℃以上で燃料電池の発電を行うことができるならば、これらの装置が不要になるだけでなく、触媒の反応効率が向上し、燃料中の不純物による触媒の不活性化が起きにくいなど、低コスト化につながる多くの利点がある。これまで中/高温型PEFCでは、高分子膜にリン酸などの液体酸を含ませて水素イオンを流していた。しかし、液体でリン酸などが漏出してしまい、劣化するという問題があったため、中/高温型PEFCはごく限られた用途でしか実用化されていなかった。
研究グループではこれまで、加湿なしで100℃以上でも発電できる中/高温型PEFCにおいて、液体酸の漏出による劣化を抑制する研究を行ってきており、今回、液体酸に替えて高分子固体状の酸を用いたほか、ベースとなる高分子に固体状の酸をブレンドした膜を高分子膜として電極間に挟んだ。この固体状の酸は高分子主鎖に酸基が側鎖として高密度に結合した構造をしており、隣り合う酸基でバケツリレーのように水素イオンを運搬することができるという。
また、従来、漏出したリン酸で触媒部分においても水素イオンの運搬が行われていたが、酸漏出を抑制したことに伴い、触媒部分にも水素イオン運搬機構を導入する必要が生じていたことから 、今回、"ボトムアップナノ集積法"の採用により、高分子化した酸を新たにナノ積層した新規電極触媒を開発。これら高分子膜と新たに開発した電極触媒を組み合わせることで、液体酸の流れに頼ることなく水素イオンを電極間に流して発電する中/高温型PEFCの開発に成功したとする。
耐久性試験の結果、高分子化酸を用いることで、燃料電池の寿命が向上することが明らかとなった。電池の長寿命化は低コスト化と同じ効果があるため、結果的に低コスト化が実現できたことになる。さらに、中/高温型にすることで、燃料電池システムのうち冷却器や加湿器にかかるコスト分で10%のコスト削減が可能となる。また、水素もこれまでのような純度を必要とせず、白金以外の金属も触媒活性を示すことから、さまざまな面において低コスト化が可能な技術と言える。加えて、これまで中/高温型PEFC の弱点であった室温付における発電も実現できた。これにより、現在市販されている燃料電池の代替も十分可能と考えられるとしている。
研究グループでは、発電可能温度を250℃まで拡張する検証を進めている。さらなる高温発電により、直接都市ガスから発電することもでき、改質器も不要になる。また、同技術における特徴の1つである「ボトムアップナノ集積法」で作製する触媒構造の利点を活かして、低白金化を進めていく。触媒活性を高めるナノ構造を作製することで、白金量を現在の1/20程度にできるとコメントしている。