東北大学は4月26日、腎臓に発現する膜タンパク質の1つをコードする遺伝子「SLC41A1」の変異が、先天性嚢胞性腎疾患で、最終的には腎不全に至る「ネフロン癆」の原因となることを発見したと発表した。
同成果は同大大学院医工学研究科 医学系研究科病態液性制御学分野の阿部高明教授、ミシガン大学のHildebrandt教授、東京医科大学の小西眞人 教授らによるもの。詳細は、米国腎臓学術誌「Journal of the American Society of Nephrology」電子版に掲載された。
嚢胞性腎疾患は腎臓内に水分の含まれた袋状の構造である嚢胞が形成される腎機能が低下する疾患群で、進行すると腎不全に至る病気だ。中でもネフロン癆は、腎臓の髄質に嚢胞形成を認める遺伝性嚢胞性腎疾患の代表であり、幼児や小児で発症し、そのまま末期腎不全へと進行していくことが知られている。しかし、根本的な治療法はなく、これまでの研究から、その原因としていくつかの遺伝子の変異が報告されているものの、いまだ疾患全体の70%は原因遺伝子が不明となっており、疾患の治療法確立に向け、その解明が待たれていた。
今回、研究グループは次世代シークエンサーを用いて、全ゲノムの中でタンパク質を決める部分(エクソン)の約3万個の遺伝子をすべて解析する「全エクソーム解析」をネフロン癆の500家系において実施したところ、病気の原因の候補としてSLC41A1遺伝子の変異を発見したという。
SLC41A1は、これまでマグネシウムイオン(Mg2+)を運搬する輸送タンパク質ということは知られていたが、実際のヒトの体の中においてどのような働きを担っているかは不明であった。
研究グループでは、このSLC41A1の調査を進めていったところ、ネフロン癆の病気の原因となる尿細管の部位に発現していること、またネフロン癆患者に存在する遺伝子変異はマグネシウムイオンを輸送するSLC41A1の機能を大きく低下させるとともに尿細管の構造異常を起こしうることを発見したとする。
また、同遺伝子の欠損をゼブラフィッシュで起こしたところ、腎臓になるべき部分が嚢胞化して正常な腎臓が形成されないことが判明した。
この結果は、輸送タンパク質の機能異常がネフロン癆の原因となることを示したほか、腎臓内のマグネシウムイオンの恒常性の破綻が嚢胞性腎疾患を引き起こすということを示したものとなった。
これらの成果から研究グループでは、ネフロン癆は小児の腎臓病の中で透析にいたる確率が一番高い疾患であり、今後、SLC41A1をターゲットとした研究を進めることでネフロン癆を含む嚢胞性腎疾患に対する新たな治療薬や治療法の開発につながることが期待されるとコメントしている。