地球から約90億光年も離れ、太陽の1000億倍の明るさをもつとされる“超高輝度”の超新星の光が、実は、地球との間にある銀河などの大質量の天体によって空間が曲げられる「重力レンズ効果」で集光され、実際の約30倍も明るく見えていたことが分かった。東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構のロバート・クインビー特任研究員らが、これまで難しかった同効果による増光率の測定に成功した。今後さらに他の天体の重力レンズ効果を測定することで、宇宙に充満する暗黒物質や暗黒エネルギー、ブラックホールなど、光で直接観測できないものの解明にもつながるという。
この超新星は2010年8月に発見された「PS1-10afx」。超新星は、恒星が一生を終えるときに大爆発して生まれるが、PS1-10afxは非常に遠方にありながら極めて明るいことから「超高輝度超新星(superluminous supernovae;SLSNe)」の一種と考えられていた。しかし通常の超高輝度超新星は青色で、明るさの変化は比較的遅いが、PS1-10afxは赤色の成分が強く、明るさの変化も通常の超新星と同様に速いという特徴があった。
クインビー特任研究員らがPS1-10afxのデータを解析したところ、光の波長分布と明るさの時間変化は「Ia型」超新星の特徴と正確に一致することが分かった。Ia型超新星は、宇宙のどこで誕生したものでも、明るさと時間変化の関係が非常に似通っている。そのため、地球と超新星(の属する銀河)との距離を測る「標準光源」として利用されているが、PS1-10afxは通常のIa型超新星の約30倍という異常な明るさであり、「標準光源」としてはかけ離れてした。
この矛盾を解くため、クインビー特任研究員らは同機構の宇宙物理学者や数学者を総動員して検討したという。その結果、見出したのが「重力レンズ効果によって、超新星の明るさが増幅されて見えた」という結論。PS1-10afxと地球との間に大きな質量の天体が存在していて、宇宙の別の場所に届くはずの光も重力レンズで集光され、地球から超新星が非常に明るく見えたのだという。この現象では効果を受けた天体の色や波長分布、光度変化の速さは影響を受けず、天体の明るさだけが大きくなって観測される。「PS1-10afxでは、まさにこの現象がとらえられていたのだ」という。
今回の研究では、Ia型超新星の標準光源の性質を利用することで、重力レンズ効果による増光率を直接測定することができ、重力理論による計算を検証することにつながった。同機構が推進している、すばる望遠鏡(ハワイ)に設置した超広視野イメージング装置「HSC(Hyper Suprime-Cam)」などの観測で、さらに多くの重力レンズ効果を受けたIa型超新星や他の天体が発見されるだろうと述べている。
研究論文“Extraordinary Magnification of the Ordinary Type Ia Supernova PS1-10afx”は米国天文誌「The Astrophysical Journal Letters」(5月1日号)に掲載される。
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