名古屋大学(名大)は4月23日、カブト虫のツノの形成は、性差を司る「dsx遺伝子」によって制御されていることを解明したと発表した。
成果は、名大大学院 生命農学研究科 資源昆虫学研究分野の新美輝幸助教らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、4月23日付けで欧州分子生物学機構の学術誌「EMBO Reports」に掲載された。
カブト虫といえば、クワガタと並んで子どもに人気の甲虫で、体格に加えてツノが立派な個体は、高額で取り引きされている。このツノはいうまでもなくオスのみに存在し、メスを獲得するために、ライバルのオスと戦うための武器として用いられている。この甲虫のオスに特に顕著な、過剰なまでに発達したツノについては、ダーウィンの著書「人間の由来と性淘汰」にも記されており、古来より多くの研究者の興味を集めてきた。しかし、意外なことにそのツノを形成する分子メカニズムについては未解明の部分が多かったのである。
そのツノは前述したようにオスのみに存在することから、新美助教らは性差を司る遺伝子「doublesex(dsx)」に着目し、カブト虫にも同遺伝子が存在しているのかどうか調べるところから研究はスタート。調査の結果、dsx遺伝子をカブト虫のゲノム中に1つだけ存在していることが確認された。しかしdsx遺伝子からは、オスとメスで一部分が異なるオス型とメス型のタンパク質「Dsx」が作られるという、不思議な仕組みが備わっていたのである。
そこでdsx遺伝子の働きをなくしてカブト虫を育成したところ、本来はオスであったはずの個体では、頭部のツノが縮小し、胸部のツノは消失という大きな影響が確認された。その一方で、本来はメスであった個体には、頭部に小さなツノが形成されるという、こちらも外見的な変化が確認されたのである。つまり、dsx遺伝子が働かないと、オスでもメスでもない雌雄中間型のツノが形成されるということが判明したというわけだ(画像)。その点について新美助教らは、「驚くべきこと」としている。
さらにこの結果から示唆されたのが、オス型のdsxタンパク質が働くことでオスには大きなツノが形成されること、そしてメス型の同タンパク質が働くことでメスにはツノ作りが抑制されるということだ。
これは、カブト虫のツノがどのような進化を経て獲得されてきたのかを考える上で、新たな視点を与えるものだと新美助教らは述べている。カブト虫は進化の過程において、まず未発達な状態の短いツノが生徒は無関係に獲得され、次にdsx遺伝子がツノの形成に関わるようになり、雌雄で異なるツノへと進化したことが考えられるとする。
つまり、オス型のdsxタンパク質がより発達したツノの形成を促進していき、逆にメス型の同タンパク質がツノの形成を抑制するようになり、その結果、雌雄で顕著に異なる形態へと進化してきた可能性が示されたというわけだ。
またツノの形成に加え、dsx遺伝子は生殖巣や交尾器といった器官はもちろんのこと、身体の表面構造(オスはツルツル、メスはざらつき細かい毛が生えている)といった雌雄差を作る働きがあることも明らかになった。ちなみにdsx遺伝子を働かなくすると、雌雄共に赴任となることも確認されている。
昆虫が持つ未知の生命機能を研究することにより、昆虫を有効に利用するための理論を築くことが可能になると、新美助教らは語っており、今回の昆虫の不妊化法は、新規の害虫防除法に応用される可能性があるとも述べている。