このブログの読者ならACRって知ってるよな?なに?知らない?そりゃいかん!ぼくも最近ようやく憶えたところだ。あなたもこの機に憶えよう!
ACRとはAutomatic Content Recognitionの略。つまり、自動的にコンテンツを認識するシステムのことで、最近だとスマホのアプリに仕込まれていて、音楽を聞かせると自動的に曲名を教えてくれたりする。Shazamなんていう有名なアプリがある。自分のスマホでダウンロードして試してみるといい。
これを音源に近づけると・・・
こんな風に曲を探しだしてくれるわけ。
このACRという技術はいま秘かにホットになっていて、様々な人たちが取り組んでいる。そのひとつが、Gracenoteという会社だ。アメリカの企業なのだけど、ソニーアメリカの子会社でもある。このGracenoteがこの4月18日に渋谷でACRを中心にした展示会を行った。それがFuture Of SmartTVだ。
展示会といっても大げさなホールを使ったものではなく、こじゃれたカフェを借りてドリンクなども出してくれるカジュアルなムードだった。
ACRという言葉と共にもうひとつ憶えておくといいのがFingerPrintという言葉。そのまま訳すと”指紋”という意味だけど、ひとりひとり指紋がちがうように、音楽も指紋を読み込むように個別に識別する、そのためのデータをFingerPrintと呼ぶ。
GracenoteのACRはこのFingerPrintが映像での認識もあるのが特徴。これを利用したデモを見せてくれた。
テレビが4台並んでいて、同じ映像が流されている。4台で同じ放送を受信しているというわけだ。それぞれが別々の家庭で視聴中だという想定。それぞれのモニターの下には、男性独身、女性独身、ファミリーなどと、個々の家庭のプロフィールが表示されている。
これがCMになると、こうなる。
4台がそれぞれ別々のCMを映し出している。これは、それぞれのプロフィールにふさわしいCMが個別に表示されているのだ。つまりターゲティングCMというわけ。
テレビ受像機にACRが組み込まれていて、番組中は放送をそのまま映し出すのだけど、CMの時間になると瞬時にテレビ受像機側で映像を差し替える。差し替える映像はネット経由で配信される。この仕組みを図にして説明してくれた。
細かい技術はぼくにはわからんちゃんだが、とにかくテレビCMをターゲティングして配信できるとしたら、よだれが出る話だろう。テレビほどのマスメディアがターゲティングを手に入れられたら鬼に金棒だ。
もっともこの技術を具現化するには、多くの家庭がACRを組み込まれたテレビ受像機を持つ必要があるし、放送局もシステムを整えねばならない。遠い道のりではあるなあ。
もうひとつ、ACRを活用した重要な展示があった。例えばゴルフ番組を観ながらタブレットで番組の音を認識させる。するとその番組専用のセカンドスクリーンが起ち上がるのだ。
我ながらなんて下手な写真かと思うけど、我慢してみて欲しい。このように、ゴルフ番組を観ながらACRに認識させタブレットに登場したセカンドスクリーン。番組の進行に沿って、場面にあった情報や画像を送り込んでくれる。
例えばあるゴルファーが登場すると、彼が愛用するクラブが画面に。そのクラブのスペックなどを調べたり、そのメーカーのサイトに飛ばしたりもできるようになるだろう。
このACRを元に、ソニーグループはセカンドスクリーンアプリを開発中だという。その考え方を図にしたものがこれ。
コードネームはmacaronというそうだ。あの甘いお菓子ね。
中央部分に、そのセカンドスクリーンアプリが持つべき要素が並んでいる。写真だと読めないので書きだすと、EPGつまり電子番組情報・Related Content番組関連の画像や予告映像など・Program Detail番組詳細・Socialつまりは番組についてのFacebook,Twitter。
さらに、Rewards, Social Analytics, Ad/Promotional content, Commerce Opportunity, Syndication, Interactive contentと続く。この中でも、Adつまり広告、コマースオポチュニティつまり物販できるかも。この2つがマネタイズにつながる要素だ。
ぼくは去年からソーシャルテレビに注目し勉強会も運営してきたのだが、今年はそのビジネス化が課題となると捉えているしその大きなファクターがセカンドスクリーンにあると考えている。
大げさに言うと、セカンドスクリーンのプラットフォーム化を誰が担うか、征するか。なんとなくいまもやもやと、セカンドスクリーンを共通プラットフォームで、という動きが出てきそうだなと睨んでいる。
一方で、APIの解放も重要なキーワードだ。テレビ局がAPIを誰でも使えるようにすれば、多種多様なセカンドスクリーンが登場し、それぞれマネタイズに挑戦できるようになる。
ぼくはセカンドスクリーンの共通化を図るより、APIの解放で勝手サイト的にうじゃこじゃ出てくる方が結果的にはビジネス化できてくるんじゃないかと思う。それにその方がネットらしい。ネットらしいかどうかは感覚的な話じゃなく、ネットを軸に何かする際のポイントだと思う。ネットらしいことは重要だ。
とにかくこのセカンドスクリーンがんばるぞムーブメントの一角に、Gracenoteを擁するソニーが名乗りを挙げたということだ。なんかみんなでうまく力を出し合い利用しあって、テレビを面白くしてくれればいいなと思っているよ。
<ライター紹介>
境 治 (Osamu Sakai)
メディア・ストラテジスト。1987年、東京大学を卒業し、広告代理店I&S(現ISBBDO)に入社してコピーライターとなる。92年、TCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞を受賞。93年からフリーランスとなりテレビCMからポスターまで幅広く広告制作に携わる。06年、映像制作会社ロボットに経営企画室長として入社。11年7月からは株式会社ビデオプロモーションでコミュニケーションデザイン室長としてメディア開発に取り組む。
著書『テレビは生き残れるのか』
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