東京大学(東大)は4月17日、2003年にインドネシアのフローレス島で化石が発見された身長が1mほどしかない小型の原人「フローレス原人(学名:ホモ・フロレシエンシス。ニックネームはホビット)」の脳サイズを測定し、これまでの推定値の多くが過小評価であったことを示したと発表した。
同成果は同大大学院理学系研究科の久保大輔 特任研究員、国立科学博物館人類研究部の河野礼子 研究主幹、同 海部陽介 研究主幹(東大大学院理学系研究科 准教授)らによるもの。同成果は「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B(Biological Sciences))」電子版に掲載された。
今回のタイプ標本として用いられた「LB1(リャン・プア1号)」化石の年代は約2万年前とされている。フローレス原人は、その骨格形態から原人に分類されているものの、その脳は猿人並みに小さく、人類における脳進化の在り方について再考を迫る存在とされているほか、どうやって海を越えて、いつ・どのような理由で絶滅したのかなど多くの謎が残されており、その進化モデルとしては、「200万年前ころにアフリカにいた小柄で脳も大きくない最初期の原人(ホモ・ハビリス)が直接の祖先」とする説と、「それより進歩的で大柄かつ脳も大きい原人(ホモ・エレクトス:ジャワ原人や北京原人など)が祖先」であるとする説に分かれて議論が行われてきた。
一般的に化石頭骨の脳サイズは、頭蓋腔容量を計測することにより定量されるが、LB1の脳サイズについては、これまで4つの予備的測定が報告されているものの、380~430ccと一致していないため、研究の妨げとなっていたが、今回の研究で、LB1の脳サイズをCT画像データなどを用いて高精度な測定を行い、それを元に頭骨の輪切り模型の作製、ならびに頭骨にいくつかある穴から撮影した内腔の映像などを用いて得られた内面破損の修復などにより、高い精度での定量を実現したという。
この結果、得られた脳サイズは426cc(誤差±3cc以下)となり、現代人の1300ccと比べると小さいものの、これまでの推定値の多くが過小評価であったことが示された。
また、フローレス原人には脳サイズの問題のほか、脳の進化モデルとして、「脳サイズ縮小の一部は身体サイズの小型化と連動した結果であるはずだが、その割合が不明」という点と、「地理・時代で変異のある原人のどれを具体的な祖先候補とするかがあいまい」という課題があったが、今回の研究では、世界各地の現代人20集団のデータを解析することで、小柄な人ほど脳も小さい傾向にあるという関連性が渋滞の予想よりも強いことが示されたほか、有力な祖先候補として、脳サイズ約860ccの「初期のジャワ原人」が挙げられた。
特に後者は、初期のジャワ原人の脳サイズがこれまでの991ccから860ccへと下方修正された一方で、子孫となるフローレス原人の脳サイズが約400ccから426ccへと上方修正されたことから、脳サイズの変化曲線も修正されることとなり、ホモ・ハビリスが祖先であると考えるには問題が多いということが示される結果であり、これにより、「大柄な初期ジャワ原人が孤島へ渡り、著しく矮小化することによってフローレス原人が生まれた」という仮説が成り立つことが示されたと研究グループでは説明する。
なお研究グループは今回の成果から、原人以降の人類の進化は身体・脳サイズの大型化に特徴づけられるものの、意外に柔軟性に富み、条件によっては逆方向(小型化)への進化もあり得たことが示唆されたとするほか、「フローレス原人の脳は小さすぎるので小頭症を患った病気個体である」という批判の根拠が揺らぐこととなったとコメントしている。