アステラス製薬は、米ジョンズ・ホプキンス大学との共同研究において、クエチアピン(国際一般名、日本での製品名:セロクエル)に関し、CD-1マウスにおいて細胞周期遺伝子の発現を制御するという新規作用を発見したと発表した。
同成果の詳細は、米国科学誌「Translational Psychiatry」に掲載された。
統合失調症の陽性症状に対する定型抗精神病薬の薬理作用は、主としてドーパミンD2受容体に対する拮抗活性に基づくと考えられているが、近年の非定型抗精神病薬は、従来の定型抗精神病薬を上回る優れた薬効を示し、中でもクエチアピンは、統合失調症に加え、双極性障害におけるうつ状態や大うつ病性障害の適応症で、多くの国で承認されている。クエチアピンの薬理作用はドーパミンD2をはじめとして、セロトニン5HT2A、アドレナリンα1を含む神経伝達因子受容体への調節作用に基づくと考えられているものの、脳内における作用部位や細胞内シグナル経路については完全に解明されたとはいえなかった。
今回、研究グループは、ヒト臨床投与量を反映したCD-1マウスに対する前臨床長期投与試験において、定型抗精神病薬である「ハロペリドール」と比較して、クエチアピンが細胞周期遺伝子p21/Cdkn1aの発現を特異的に抑制することを、神経細胞や稀突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)にて確認したという。
研究グループでは、ヒトでは、患者死後脳を用いた遺伝学、病理学、ならびに遺伝子発現変動研究より示される細胞周期の調節異常や、白質病変を引き起こす稀突起膠細胞の機能異常は、統合失調症や双極性障害におけるうつ状態や大うつ病性障害における共通の病態変化として提唱されているため、今回の成果であるクエチアピンの前頭皮質における新規作用により、新たにクエチアピンの薬理作用が説明できる可能性があるとしている。
なお、同社は日本において、統合失調症の効能・効果で、セロクエルを製造販売しているほか、双極性障害におけるうつ状態や大うつ病性障害の追加適応症において、徐放錠で臨床開発を進めていることから、今回の研究成果を活かし、新規創薬標的の同定とトランスレーション研究を推進し、神経科学領域での革新的な創薬を目指していきたいとしている。