京都大学は4月10日、π共役ポリマーのπ共役鎖を直線型からジグザグ型に変更することにより、高い電荷移動度を示す高分子材料を開発したと発表した。同材料の設計指針をさらに推し進めることにより、実用的な有機半導体材料および分子エレクトロニクス分野における配線素子としての応用が期待されるとしている。
成果は、同大 工学研究科 寺尾潤准教授、辻康之教授、東京工業大学 元素戦略研究センター 多田朋史准教授、大阪大学大学院 工学研究科 関修平教授らによるもの。詳細は、英Nature Publishing Groupの「Nature communications」のオンライン速報版で公開された。
主に炭素からなる有機半導体材料は、デバイス特性ではシリコンなどの無機材料に比べて劣るものの、軽量、大面積、フレキシブル、印刷が可能などの特徴から電子ペーパーやフレキシブルディスプレイなどのこれまでの半導体技術では実現できなかった分野への応用が期待されている。特に、電気を流すプラスチックとして知られるπ共役ポリマーは、低分子有機化合物に比べて、溶液からの塗布工程に向くという利点があり、インクジェットや輪転機などの印刷プロセスが適応できることから、低コスト化が容易になると注目されているものの、電荷移動度が、シリコン系半導体材料と比較可能なレベルに達していないことが、高分子系半導体材料の開発における最大の課題であり、高い電荷移動度を示す材料の開発が強く求められていた。
今回の研究では、高分子系半導体材料の主要な電荷移動過程であるポリマー鎖間ではなく、より効率的なポリマー鎖内での電荷移動を利用するため、ポリマー鎖を絶縁性の環状分子であるシクロデキストリン誘導体により被覆。これにより、アモルファスシリコンに匹敵する高い電荷移動度0.7cm2V-1s-1を有する直線状の被覆型ポリマーの開発に成功したとする。
しかし、実際に素子を使用する室温領域では、熱によるポリマー鎖のゆらぎが大きな問題となり、これを効果的に抑え込むことが難しいことも判明したことから、より効率的なポリマー鎖内での電荷移動を行うために、ポリマーの分子軌道をあえて局在化させて、これを規則正しく並べると同時に、エネルギーの高さを等価にすることで、熱エネルギーの助けを借りて踏み石を飛ぶように移動するホッピング移動を効率的に行わせることが可能ではないかと考え、同アイデアに基づき、被覆されたポリマー主鎖に規則正しく折れ曲がり部位を導入し、主鎖骨格を直線型からジグザグ型に変更することで、電荷移動度を向上させることに成功したという。
また折れ曲がり部位の距離を広げることで、電荷移動度はさらに向上し、時間分解マイクロ波伝導度測定により、ホッピング伝導の上限値に迫る8.5cm2V-1s-1を示すことを確認。これについては、東京工業大学の多田准教授らの研究グループと協力することで、時間依存型の量子力学計算から予測される移動度の主鎖骨格依存性と整合しており、ジグザグ型主鎖骨格に起因する規則正しい整列と局在化した分子軌道群が移動度の向上に重要であることが示されている。
なお研究グループでは今後、今回開発した手法をπ共役系が拡張された主鎖構造に適応することで、より高い電荷移動特性を有するπ共役ポリマーの創成が期待されると説明するほか、得られた被覆型π共役ポリマーは、有機エレクトロニクス分野における半導体材料のみならず、分子デバイスの配線素子としての利用も期待されるとコメントしている。