宮崎大学は4月8日、米テキサス大学アーリントン校、米ビッツバーグ大学との共同研究により、ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが1604年に観測したことで知られる「ケプラーの超新星爆発」を引き起こした星を、日本のX線天文衛星「すざく(Astro-EII)」を用いて星の残骸を調べたところ、太陽よりも数倍多くの割合で重い元素を含んでいたことが明らかになったと発表した。

成果は、宮崎大工学部の森浩二准教授、テキサス大のSangwook Park助教、米ビッツバーグ大学のCarles Badenes助教らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間4月10日付けで米科学雑誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載されるのほか、NASAでも現地時間8日付けでプレスリリースが発表されている。

超新星爆発の際には膨大なエネルギーが放出されるため、地球から数十億光年彼方の深宇宙で起きたものでさえも観測可能だ。超新星爆発はいくつかの種類に分類されるが、その中でも宇宙の距離を測るための標準光源として用いられているのが「Ia型」と呼ばれるものである。

なぜ宇宙の距離を測るための標準光源として利用できるのかというと、Ia型超新星爆発は爆発時に放出されるエネルギーの量がほぼ等しく、絶対的な明るさがほぼ等しいからだ。つまり、地球から遠ければ遠いほどより暗く、近ければ近いほど爆発が明るく観測されるので、見かけの明るさで距離を知ることができるのである。

この発見が科学的にどれだけ評価されているかは、Ia型超新星爆発の詳細な観測から宇宙が加速膨張していることを突き止めたという理由で、2011年に米カリフォルニア大学バークレー校のSaul Perlmutter教授、オーストラリア国立大学のBrian P. Schmidt教授、米ジョン・ホプキンス大学のAdam G. Riess教授の3人にノーベル物理学賞が贈られていることからわかるというわけだ。

ところが、近年になって、「Ia型超新星爆発の明るさがほぼ等しい」という考えに対して、疑問が持たれるようになってきた。絶対的な明るさが予想外にバラついているのではないかと、研究者の間で考えられるようになってきたのだ。研究チームのPark助教によれば、「Ia型超新星爆発と一言でいっても、爆発前の星の組成、その周辺環境、そして爆発メカニズムは実は多岐にわたるのかも知れません」と語っている。

さらにPark助教は、「現在の人類の宇宙の理解はIa型超新星爆発に依存するところがあり、Ia型超新星爆発をよりよく理解することは、宇宙そのものをよりよく理解することにつながります」と述べている。なおPark助教は、今回発表された論文の主著者だ。

爆発前の星の組成を把握するのに最も優れた方法は、超新星爆発により撒き散らされた星の残骸を詳細に調べることだ。星の残骸は高速で膨張し周囲の物質に衝突するため、数千万度の高温ガスの状態になる。そのため、爆発後数1000年以上の間、X線で明るく輝く(画像1)。そのX線の中から各元素に特有の「輝線」と呼ばれる信号をとらえることで、爆発する前の星の組成を知ることができるというわけだ。

なお、画像1はNASAのX線天文衛星「チャンドラ」で撮影したケプラーの超新星爆発の残骸である。これは低、中、高エネルギーのX線で撮影した画像を、それぞれ、赤、緑、青色で作成し、それらを合成したものだ。また、背景の白黒画像はデジタルスカイサーベイより取得した可視光画像である。この天体までの距離は正確にはわかっていないが、2万3000光年程度だと見積もられている。この画像の横の差し渡しは1/5度角で、2万3000光年の距離を仮定するとおよそ80光年に相当する。

論文共著者の1人であるBadenes助教は、「ケプラーの超新星爆発は、我々の天の川銀河内で最近起きたIa型超新星爆発の1つです。それ故、ケプラーの超新星爆発およびその残骸を研究することは、Ia型超新星爆発の理解を深めるために重要なのです」という。

画像1。NASAのX線天文衛星「チャンドラ」で撮影したケプラーの超新星爆発の残骸。(c) X線画像:NASA/CXC/NCSU/M.Burkey et al./光学画像:DSS

そこで研究チームは「すざく」に搭載されたX線CCDカメラ「XIS」を用いて、ケプラーの超新星爆発の残骸を観測することにした。「すざく」は宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部(現・宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)が、NASAをはじめとする日米の複数の機関と共同開発した日本の5番目のX線天文衛星で、2005年7月に打ち上げられ、現在も活躍中である。

研究チームは合計で2週間以上の観測を行い、すでに知られていた鉄(原子番号26)元素からの強い輝線に加えて、クロム(原子番号24)、マンガン(原子番号25)、ニッケル(原子番号28)からの微弱な輝線を明瞭にとらえることにも成功した。これら4つの元素からの輝線を検出することが、爆発前の星の組成を探る上で必要不可欠だったのである。「すざく」により取得されたケプラーの超新星爆発の残骸のそのX線スペクトルが、画像のグラフ2だ。

グラフの見方だが、横軸はX線のエネルギーで、縦軸がX線の強度を表す。また、十字で示される点がデータを、実線がデータを最も再現する理論モデルを、破線がその理論モデルの各成分を示す。鉄の信号と比べて、クロム、マンガン、ニッケルの信号の強度は弱いものの、それらを明瞭に検出できていることがわかるはずだ。なお、各元素からの信号は一般に複数あり、エネルギーが異なる。鉄のように豊富に存在する元素の場合は、図のように複数の信号が観測できるという。

論文共著者の1人である森准教授は、「優れたエネルギー分解能、高い感度、低く安定したノイズを併せ持つ最新鋭のXISでしか、この観測結果を得ることはできませんでした」と語る。

画像2。「すざく」により取得されたケプラーの超新星爆発の残骸のそのX線スペクトル

Ia型超新星爆発の爆発時のエネルギーがほぼ等しいという特徴は、爆発する星がどれも「白色矮星」であることに起因している。白色矮星とは、ほぼ炭素から構成され、質量は太陽と同じぐらいだがサイズは地球程度というコンパクトな天体だ。白色矮星はそれ単独では安定しているが、普通の恒星もしくは別の白色矮星と連星をなすと、一転して不安定になる。普通の恒星が相方の場合は、白色矮星の強い重力が相方の恒星の表面のガスをはぎ取り、そのガスを白色矮星自身に降り積もらせるのだ。

別の白色矮星が相手の場合は、互いを回る軌道が徐々に小さくなっていき、終いには衝突してしまうという。どちらの場合で質量が増加したにせよ、白色矮星の質量が太陽の約1.44倍(「チャンドラセカール限界」といわれる)に達した時、超新星爆発が起きる仕組みだ。それは、水素→ヘリウム→炭素という核融合する元素がより重くなっていくことが関係している。

太陽のような主系列星の恒星は、水素(原子番号1)を核融合させてヘリウム(原子番号2)を作るが、寿命の末期になって恒星の中心部の水素が尽きると、恒星は自分自身の重力を支えられなくなって縮みだし、そうして圧縮された結果、中心部の温度がさらに高くなって今度はヘリウム3つを核融合させて炭素(原子番号6)を作る過程が始まる。

さらに、ヘリウムが尽きてくると、同様のことが起こって、今度は炭素核融合によるネオン(原子番号10)が作られていく。すると、それが外部に伝播しながら進行し、星の表面に達した時点で自らの外層を吹き飛ばしてしまい、それがIa型超新星爆発となるというわけだ(十分に重い星の場合、恒星内での核融合反応は、ネオン→酸素(原子番号8)→ケイ素(原子番号14)とさらに続き、ニッケルと並んで全元素中で最も安定している鉄(正確には鉄56とニッケル62)を生成して終了となる)。

この爆発後の残骸中に含まれるクロム、マンガン、ニッケルなどの微量元素の量を測定することで、爆発前の白色矮星中のヘリウムより重い元素の割合を示す「金属量」を見積もることが可能だ。クロムの量が金属量に依存しない一方で、マンガンの量は金属量に強く依存し、その比が金属量のよい指標(トレーサー)になっているためだ。

また、星の中での元素合成が起こる場所によっては「クロム/マンガン比」がトレーサーとならない場合もあるが、「ニッケル/鉄比」がその場所特定のトレーサーとなっており、今回の場合は「クロム/マンガン比」が金属量のトレーサーになり得ることがわかった。

こうしてケプラーの超新星爆発の残骸を「すざく」で観測して得られた「クロム/マンガン比」から、爆発前の白色矮星の金属量は太陽のそれと比較して3倍ほど多かったということがわかったのである。このようにIa型超新星爆発の残骸の観測から、爆発前の白色矮星の金属量が太陽の金属量に比べて有意に多いという結果を得たのは初めてのことだという。

理論計算からは、爆発前の白色矮星の金属量が、Ia型超新星爆発の絶対的な明るさに影響を及ぼすことがわかっている。従って、今回の発見は、Ia型超新星爆発の絶対的な明るさにこれまで考えられていなかったバラつきがある可能性を示唆するという。宇宙の膨張速度の測定は標準光源たるIa型超新星爆発の明るさのバラつき具合に依存しており、今回の結果は単に1つの星の爆発前の姿を暴いたというだけに留まらず、宇宙膨張の測定の信頼性の議論にまで発展していくことが予想されると、研究チームは述べる。

研究チームは今後、爆発後の残骸から爆発前の白色矮星の組成を探るという手法をほかの超新星の残骸にも適用して、Ia型超新星爆発の多様性の度合いを明らかにし、宇宙に対する理解をさらに深めることが期待されるとした。