東京大学(東大)は3月27日、ネコが人間の呼び声に反応するとき、見知らぬ他人の呼び声と飼い主の呼び声を区別していることを科学的に証明し、ネコの人間に対する社会的な認知能力を明らかにしたと発表した。
同成果は同大大学院総合文化研究科の齋藤慈子 講師、慶応技術大学の篠塚一貴 共同研究院らによるもの。詳細は「Animal Cognition」に掲載された。
イヌとならび人間の2大伴侶動物であるイエネコの社会的な認知能力は「イヌは人につき、ネコは家につく」といった言葉もあるように、これまであまり注目されてこなかった。
今回、研究グループは一般家庭で飼育されているネコを対象として合計20匹の訪問調査を行い、ネコが人間の呼び声をどのように認知しているかを調べた。具体的には、馴化脱馴化法を用いて、飼い主がネコの名前を呼ぶ音声と、飼い主と同性でネコと面識のない4人がネコの名前を呼ぶ音声を、あらかじめ録音して実験に使用。飼い主のいない部屋でネコが十分に落ち着いた後、部屋の外に設置したスピーカーから、30秒間隔で他人1、他人2、他人3、飼い主、他人4の順で呼び声を再生し、その際のネコの様子をビデオ撮影し、個々の呼び声に対するネコの反応のビデオクリップを作成して、分析を行った。
実験ではネコの反応を、6パターン(頭を動かす、耳を動かす、鳴く、尾を動かす、瞳孔が開く、移動する)に分類し、どの呼び声にどの反応が見られたかを記録して分析が行われた。その結果、多くのネコが呼び声に対して頭や耳を動かす定位反応を示したものの、鳴いたりしっぽを動かしたりする応答的な反応やその他の反応はあまり見られず、飼い主に呼ばれた場合でも、定位反応を示す個体は増えたものの、応答的な反応を示す個体は増えなかったという。
ビデオクリップ中の呼び声には純音をかぶせて、ランダムな順に分析をすることで、分析にバイアスがかからないようにした上で、10人の評定者にすべてのビデオクリップを見てもらい、それぞれの呼び声に対するネコの反応の強さを、反応なし(0点)~強い反応(3点)の4段階で評価を実施してもらい、ネコごとに各呼び声に対する平均得点を求め、分析したところ、20匹のうち15匹で他人1よりも他人3で反応が弱まり、他人の呼び声に対して馴化したと考えられる結論を得たという。さらにこれらの馴化した15匹で、他人3への反応と飼い主への反応を比較したところ、飼い主の呼び声に対して統計的に有意に反応が回復し、脱馴化が認められたとのことで、この結果から、ネコが飼い主の声と他人の声を区別していることが考えられる結論が得られたと研究グループでは説明する。
研究グループでは今回の結果を受けて、「ネコは三年の恩を三日で忘れる」などとも言われるように、一般にネコは「ツレない」動物であると考えられてきており、今回の飼い主の呼び声に対しても応答的な反応では答えないという結果は、一般に信じられてきた「ツレない猫」の姿を科学的に裏付けるものとなるものの、一方でそうしたツレない猫も、飼い主の声と他人の声を区別していることが明らかになったことから、社会的な認知能力そのものと、それがどのように発揮されるかは区別して考える必要性があることが示唆されたと説明している。そのため今後は、家畜化された動物の社会的な認知能力の研究において、ネコが重要な比較対象となることが期待されるとしている。