千葉大学と北海道大学(北大)は、螺旋波面とドーナツ型の強度分布を持つレーザ光(光渦レーザ)を金属に照射した時にできる螺旋ナノ針(カイラルナノニードル)の螺旋の巻数が、光渦レーザの螺旋波面の巻数と偏光の向き(螺旋性)で制御できることを実証したと発表した。
同成果は、千葉大学の尾松孝茂 教授、北大の森田隆二 教授らによるもの。詳細は4月5日(現地時間)発行予定の米国物理学会誌「Physical Review Letters」に公開される予定。
光の螺旋性には、波面の螺旋構造から現れる螺旋性と円偏光によって現れる螺旋性の2種類があるが、波面の螺旋構造から現れる螺旋性はこれまで光マニピュレーションなどを除くと、ほとんど利用されてこなかった。
研究グループはこれまでの研究から、螺旋性を持つ光(光渦レーザ)を金属に照射すると、光の螺旋性が金属に転写されて螺旋状の新奇なナノ構造体(カイラルナノニードル)ができることを報告しており、今回の研究は、光の螺旋性とカイラルナノニードルの形の関係を定量的に明らかにすることを目的に実施された。
具体的には、波長1μmの光渦レーザ(パルス幅20ns、エネルギー0.2~0.8mJ)を、金属にはTa基板を用いて行われ、できあがったカイラルナノニードルの観察が行われた。光渦レーザの螺旋性を決めるパラメータには、螺旋波面の巻数で決まるLと円偏光の向きで決まるSがあるが、ともに整数であり、その符号は螺旋の向き(時計回り、反時計回り)に対応する。今回の観察からはカイラルナノニードルの螺旋の巻数は、L+S(=J)で決まり、螺旋の向きはLの符号で決まることが解明されたほか、Jが同じであれば光渦レーザの螺旋波面の巻数Lが違っても、同じ螺旋構造を持つカイラルナノニードルができることも分かったという。
これらの結果を受けて研究グループでは、光渦レーザの照射によってカイラルナノニードルが形成される過程では、まず、光渦レーザの照射により、光渦レーザのドーナツ型の強度分布に沿って金属が融解し閉じ込められ、次に融解した金属が、光渦レーザの螺旋性によって散乱力を受け、ドーナツ型の強度分布に沿って周回方向に回転運動し、それと同時に金属は光渦レーザの前方方向へ強い散乱力を受けるために、回転運動している金属は光がなく散乱力を受けないですむ光渦の中心に向かって押し出され、その後、摩擦や再結合により金属の回転運動が静止し、カイラルナノニードルが形成されると考えられると説明する。。
なお、今回の成果からカイラルナノニードルの螺旋性(螺旋の巻数、螺旋の向き、螺旋構造の半径や高さ)のすべてを光渦レーザの螺旋性で制御できることが判明したことから、研究グループでは、物質のカイラリティを検出できる近接場光プローブや原子間力プローブ、光学素子のない波長域で旋光性を示すメタマテリアル、さらにはナノコイルやバイオMEMSなどの先端ナノテクノロジーを支える機能性デバイスなどに活用できるとことが期待されるとコメントしている。