浮かんだアイデアをメモしたり、ラフを描いたり、時にはイタズラ書きをしたり……。デジタル全盛の現代においても「筆記具」は未だクリエイターの必携アイテムである。そのなかでも「鉛筆」はもっとも身近なクリエイション・ツールといえるだろう。そこで今回は、素朴ながらも実は奥が深い"鉛筆"に注目し、その成り立ちを改めて見ていきたい。
「HB」は何の略?
鉛筆には、芯の濃さと硬さに応じたいくつかの種類がある。目にする機会が多いのは、おそらく「HB」だろう。このほかデッサンには「4B」、製図には「2H」といった具合に、用途に応じてさまざまな種類が用意されている。
これらの記号には「H」、「B」、「F」といったアルファベットが使われるが、それぞれ「HARD(かたい)」、「BLACK(黒い)」、「FIRM(しっかりした)」の略字である。そして、Hの数字が多いほど薄く硬い芯となり、反対にBの数字が多いほど濃くやわらかい芯を表す。また、FはHとHBの中間の濃さと硬さを持った芯を指すのだという。
なお、硬度幅で世界一を誇るという三菱鉛筆の高級鉛筆ブランド「Hi-uni」では、10B、9B、8B、7B、6B、5B、4B、3B、2B、B、HB、F、H、2H、3H、4H、5H、6H、7H、8H、9H、10Hという、実に全22種類がラインナップされている。一口に鉛筆といっても、10Bと10Hでは書き心地においても色の濃さにおいても、かなりの違いがあるようだ。
芯の硬さはどう決まる?
いずれの鉛筆芯も原料は同じ、黒鉛(こくえん)と粘土である。つまり、"10Bの鉛筆芯"も"10Hの鉛筆芯"も同じ原料から作られている訳だが、それぞれの違いはどのようにして生まれるのだろうか?
ピンと来た人もいるかもしれないが、これら鉛筆芯の特性は2つの原料の配合比で決まるのだ。例えばHBの場合、配合比は「黒鉛7:粘土3」となる。粘土の割合を増やせばそれだけ芯は硬く、そして色は薄くなるのだという。ちなみに、シャープペンシルの替芯では、粘土の代わりにプラスチックが使用されているため、細くても折れにくい高強度な芯になるのだそうだ。
なぜ鉛筆には6角形が多いの?
次は鉛筆の形に注目してみよう。一般的な鉛筆には6角形が多いようである。これはなぜだろうか。
その理由は極めてシンプルで「机の上で転がりにくく、かつ持ちやすい形だから」だそう。鉛筆を握る場合、必ず3点(親指、人差し指、中指)で押さえることになるので、角数が3の倍数でなければならないのだ。確かに鉛筆が4角形だったりしたら、余った角が指に当たってかなり書きづらそうである。
その一方で、"色えんぴつ"には丸軸が多いのにお気づきだろうか。これは「絵を描くためにはさまざまな持ち方をするから」とのこと。また、色えんぴつの芯は、墨芯のように焼かれていないため強度的に弱く、掛かる力が均等にならない六角形の軸では芯を十分に保護することができない、という事情もあったそうだ。しかし現在では技術が進歩したため、この問題は克服されているという。
番外編、ダーマトグラフはなぜ紙巻き?
フィルム写真を扱うフォトグラファーや編集者などにお馴染みの筆記具「ダーマトグラフ」。フィルムや紙はもちろん、プラスチックやガラス、金属などにも書き込みできる、色鉛筆とクレヨンが合わさったような紙巻きの筆記具だ。
この名称の語源はギリシャ語にあり、「ダーマト(dermato)」は「皮膚」、「グラフ(graph)」は「書く、記録する」を意味するとのこと。その名のとおり、元々は医療用として皮膚に印などを付ける目的で開発されたものだそうだ。ちなみに、この名称は三菱鉛筆の登録商標なのだが、「グリースペンシル」などといった一般名称よりも広く浸透しているようである。
三菱鉛筆では昭和30年から「ダーマトグラフ」を製造しているが、当初は紙巻きではなく、木軸が採用されていたという。しかし芯にワックスが多いため、温度変化によって収縮したり、ふくらんだりして、芯が抜け落ちる課題があった。鉛筆の芯は接着剤で木に固定しているが、ダーマトの芯はワックスが多く接着剤が効かないのだ。こうした課題に対応するため、芯の伸び縮みに耐えられる紙巻きが採用された訳だ。現在ではミシン目と糸が付いた特殊な紙が使用されている。
描くための基本ツールをもっと知ろう!!
ボールペンや万年筆、シャープペンシルなど、筆記具にはさまざまな種類があるが、軸木の優しい素材感やガリガリと削って使う独特のアナログ感が味わえるのは鉛筆ならでは。そんな鉛筆に関する豆知識は、このほかにも三菱鉛筆のWebサイトに多数まとめられているので、チェックしてみてはいかがだろう。