先日公開された映画『オズ はじまりの戦い』。この作品は、映画『スパイダーマン』3部作の監督のサム・ライミ監督と『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)のスタッフがタッグを組み、映画『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(2011年)などで知られるジェームズ・フランコが主演を務めた"ザ・ハリウッド映画"というべき作品だ。そんな作品の映像制作に日本人クリエイターが関わっていることをご存知だろうか。今回はソニー・ピクチャーズ・イメージワークスに所属し、同作にシニア・アニメーターとして参加した佐藤篤司氏にCG制作秘話や日本とハリウッドのアニメーターの違いを聞いた。

佐藤篤司
1964年生まれ。多摩美術短期大学卒業後、1991年に渡米。これまでに、シニア・アニメーターとして『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(2002年)、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003年)に参加したほか、『キング・コング』(2005年)ではアニメーション・スーパーバイザーを、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)ではキャラクター・アニメーターを、『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)ではシニア・キャラクター・アニメーターをそれぞれ務める

――まず、佐藤さんの所属するソニー・ピクチャーズ・イメージワークスがこの作品にどのように関わったのか、教えて下さい。

「ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスは、いわゆるソニーピクチャーズのデジタルプロダクション部門で、映画のビジュアルエフェクトやアニメーションの専門会社です。この映画では、うちの会社がメインのビジュアル・エフェクトカンパニーとなり、全体の約80%以上の映像を手がけています。本格的な制作には約1年費やしており、アニメーターは最初は20人程度で最終的には60人近くの人数で制作に取り組みました。それ以外にもエフェクトチームやコンポジットチーム、モデリングチームがあるので、会社としてはこの作品に全部で200~300人くらいのクリエイターを投入したことになりますね」

――なるほど。では佐藤さんも1年間ほど、この作品に携わったと。

「この作品の前に『アメイジング・スパイダーマン』の制作に関わっていたので、僕個人としては約半年間ほど制作に参加したことになります」

――『アリス・イン・ワンダーランド』ではティム・バートン監督、今回は『スパイダーマン』シリーズのサム・ライミ監督と、様々な監督と一緒にお仕事をしてきたと思うのですが、監督ごとに指示は変わりますか?

「それはありますね。アニメーションには監督のテイストが出ますから。サム・ライミ監督とうちの会社は以前、『スパイダーマン』シリーズでタッグを組んでいるので、監督としては今回、CG制作の面では意志の疎通がしやすかったと思います。僕個人としては、ヒヒのCGを担当したのですが、あまり人間っぽくもなく、完全な野生動物でもない、ある程度知性をもったヒヒの仕草や表情を作れという指示があり、それが難しかったですね」

同作でのCG制作工程

――具体的に制作工程の違いはありましたか?

「この作品の場合は、サム・ライミ監督がラフのアニメーションの段階からすべて立体映像でチェックをしたいという要望があったので、単純に考えてもレンダリングの時間が2倍になり、その結果、どうしても通常よりも制作に時間がかかりましたね。登場するキャラクターの数も多いため、ひとつの映像ファイルが約300GBになってしまい、保存するだけでも5分間待たなくてはいけないこともありました」

――佐藤さんがアニメーターとして仕事しているなかで楽しいと思うときはどんなときですか。

「企画の最初から携わり、テストアニメーションを作ったり、キャラクターのセットアップにリクエストを出したりするプリプロダクションという段階があるんですが、これが一番おもしろいですね」

カンザスのサーカス一座のマジシャン オズは、口の上手さを武器に、いつか「偉大な男」になることを夢見ていた。ある日、竜巻に飛ばされて魔法の国オズに迷いこんだ彼は、この国の予言に残る"偉大なる魔法使い"とたまたま名前が同じであったために、東の魔女エヴァノラから「オズの国を支配する邪悪な魔女から救って欲しい」と依頼され、この国の人々から救世主として敬われる。財宝と名声にひかれたオズは、案内役の翼の生えた猿のフィンリーと共に邪悪な魔女を探す旅に出るのだが……
(C)2012 Disney Enterprises, Inc.

――セットがあるなかで撮影された映像とグリーンスクリーンで撮影された映像では、CG制作がやりやすいのはどちらですか。

「僕らアニメーターとしては、すべてCGのセットの方がいいですね。あとで色々いじりやすいので。また、実際のカメラではできないようなカメラの動きを作れるので、演出面でもだいぶ違ってくると思います。『アリス・イン・ワンダーランド』のときは、アリスが穴に落ちてから出てくるまで、ほとんどグリーンスクリーンでの撮影でしたね」

――以前、佐藤さんのようにハリウッドで活躍しているクリエイターの山口圭二さんに話を伺ったときに、ディズニーのCGアニメーション制作のルールを、もっと日本にいるクリエイターは学ぶべきだとおっしゃっていました。

「僕から言わせてもらえば、ディズニーのCGアニメーションはやりすぎだと思うんです。アメリカのクリエイターは基本的に何十年も前にディズニーが作りあげたアニメーションメソッドに基いて教育されている人がほとんどなんですよ。だから、例えば右側に振り向く映像を作るときに、"まずちょっと左側に振り向いてから右に振りむく"ような映像を作りますよね。そういう動きを"良し"とする傾向があるんです。僕は、個人的にはそういった誇張表現を抑えるタイプなんです」

――なるほど。では、最後にハリウッド映画の制作に将来関わりたいと思っている日本人クリエイターにアドバイスをお願いします。

「たまにハリウッドで働きたいと思っている日本人クリエイターのデモリールを見せてもらうことがあるんですけど……。どうしても日本のプロダクションに所属している場合、ひとつずつの作品の制作期間が短く、クリエイター本人も満足していないまま"完成"してしまっているものが多いのではないかと思うんです。だから、もしハリウッドで働くためにデモリールを作るのなら、自分の時間を使って、仕事で制作した映像を更にブラッシュアップして、クオリティを高めることが必要だと思います。ハリウッドでは、CG制作に潤沢な時間を与えられるので、"これしか時間がなかったから、このクオリティです"という言い訳はまったく通用しません。だから、日本の作品を見たときにクオリティー面で足りていないなと思うときが正直あります。もちろんCGアニメーションに関してだけですけどね。手描きのアニメーションについて僕が何もいう立場ではないので」

映画『オズ はじまりの戦い』は、現在、全世界公開中。