現代美術家の村上隆は20日、東京都・銀座のApple Store,Ginzaにて、映画監督の生の声を聞くというコンセプトのトークショー「Meet the Filmmaker」に登壇。初監督作品となる映画『めめめのくらげ』の制作秘話や、作品にかける想いを語った。
映画『めめめのくらげ』は14年前から温めていた企画をもとにした、村上の初監督作品。実は、村上はこの企画を映画化するつもりはなく、まったく別の作品を撮るつもりでいたという。その作品の制作が東日本大震災で一度リセットされかけた折に『めめめのくらげ』の企画を見せたところ、共同制作者の西村喜廣から後押しされ、制作を開始したと語る。
また、村上は、公害やベトナム戦争などがあった自身の子ども時代の状況と、現代の日本の状況が似ていると語り「汚染され、自分たちがあらがえない世界に生きている」という世間の構造が似通っていて、自分が知っているドラマをもう一度違う形ではき出せるのではないかと考えたという。
加えて、同作の鍵を握るキャラクターである「くらげ坊」の誕生秘話についても言及。当初の設定では、くらげ坊はねずみ男のような存在で、背も大きかった。しかし、(ホラー映画やスプラッタ映画などを手がける)西村から「スプラッタ映画を作る自分が言うのも何だけど、(ねずみ男風のキャラクターを実写で撮ると)怖くなりますよ。おそらく、村上さんが撮りたいお話とかけ離れてしまう」と忠告を受け、現在の可愛らしいフォルムに変更されたという。
このくらげ坊をはじめ、同作に登場する「ふれんど」というキャラクターたちはほぼ全てCGで作られているのだが、実写映像の撮影時にはギニョール(胴体部分に手を入れて操る人形)を使っていた部分も多く、それらを消してからCGを乗せたというエピソードも飛び出した。CG制作スタッフからは「村上さんの頭の中はアニメで動いている」と言われるほどモーションの指定が細かく、また「1シーンすごくいいシーンができてしまうと、それを軸に全て変えたくなってしまう」ために、やり直しがきくCGは「僕のような初心者にはありがたいが、フォローするほうが大変」ともこぼしていた。
このように紆余曲折を経てきた同作に関して、村上は「自分の彫刻作品と同じく、納得のいくところまで作っています」とコメント。自身の作品について「ジュブナイル、ファンタジー、そして特殊撮影がここまで混合している作品はあまりない」とも評し、「(興行的にはハイティーンから30代前半を狙うのが現実的だが)子ども達へ向けたメッセージとして作ったので、親子で見て、「あれはいったい何だったんだ」と対話してみてほしい」と語っていた。
なお、同作は、現代美術家・村上隆の初監督映画。震災後の日本を舞台に、大人には見えない生き物"ふれんど"と少年との交流を描くジュブナイル作品となっており、主題歌にはlivetune feat. 初音ミクを起用している。
映画『めめめのくらげ』は、2013年4月26日より、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて全国順次公開。