東京都・渋谷パルコにて4月1日まで開催されている「シブパル展。」で、写真家の蜷川実花と、ウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」のコラボレーション作品が展示されている。この作品は、チームラボが2010年に開発した「チームラボカメラ」に、蜷川実花がプロデュースしたデコレーション機能を追加したものだ。今回は、チームラボ代表である猪子寿之氏に、蜷川実花とコラボレーションした経緯や、画面の前に立って簡単な操作をするだけで、さまざまな加工を施した写真を撮影できるFacebook連動型のデジタルサイネージ「チームラボカメラ」の開発秘話などを聞いた。
――「シブパル展。」で蜷川実花さんとコラボレーションすることになった経緯をお教えください。
「シブパル展。」に関しては、(パルコ側から)蜷川さんにお声がけがあり、僕たちは蜷川さんからお誘いいただいたんです。以前から蜷川さんを尊敬していたので、今回声をかけていただいてとても光栄でした。
――コラボレーション企画に際して、数ある既存プロダクトの中から「チームラボカメラ」を題材にした理由は?
蜷川さんが写真家なので、というストレートな理由ですね(笑)。蜷川さんと一緒にアート作品を作ろうというアイデアもあったのですが、制作時間も限られていたので、今回は既存のプロダクトをベースとして制作を進めました。
――このコラボレーションで、蜷川さんの写真の世界観を出すために工夫された部分はありますか?
今回、基本的な方向性について、すべて蜷川さんにディレクションしていただきました。写真をデコレーションする素材に関しても、蜷川さんが詳細にセレクトしてくださったので、僕らは蜷川さんと相談しながら、プロダクトとして形にする作業を行いました。会場は鮮やかなピンク色の壁になっていますが、写真の背景はそれをそのまま取り込むのではなく、色などをコントロールして背景を合成しています。
――今回のコラボレーション作品では、カメラの前に立った人が、写真のデコレーションを自分の身振り手振りで行うようなインタフェースになっていますが、こうした内容になっている理由をお聞かせください。
そうですね。せっかくのイベントなので、みんなで会場に来て、撮るプロセスが楽しくなるといいなと思ってこういった形にしました。最終的なアウトプットとしては、蜷川さんが自ら撮影した写真の方が勝るのは当然なので。それで、写真を撮る最中に出てくるバルーンを自分の手で触って動かせたり、動きによって光の出方が変わるようにしたんです。
「シブパル展。」にて展示されているコラボ作品。デジタルサイネージの前に立ち、動くことで光の軌跡が発生して写真をデコレーションする。できあがった写真は、Facebookページにアップロードして残すことができる |
――被写体の動きが光の軌跡になるというところがユニークですが、この仕掛けを採用したのはなぜですか?
例えば、写真シール機を利用する時でも、女の子は撮る前に鏡を見ながら身なりを整えるじゃないですか。この作品では、(デジタルサイネージに写った)自分の前髪を直していたらその動きが光の軌跡になったり、偶然バルーンに手が当たって飛んでいったり、そういう何気ない動作が画面に変化をもたらすようにしました。そのために、シャッターを切るまでの時間もやや長めに設定しています。
――今回のコラボレーションのベースとなった「チームラボカメラ」は、チームラボオリジナルのプロダクトですが、その誕生のきっかけを教えてください。
雑誌「ビッグコミック スピリッツ」が30周年を迎えるにあたり、ファッションブランド「ビームス」とコラボレーションをする企画を手がけたことですね。ビームスの店舗に、お客さんが漫画風になってスピリッツのキャラクターと共演できるカメラを置くという企画が立ち上がったのが、「チームラボカメラ」開発のきっかけです。
この企画が始動した当時、まだこういったプロダクトを実現する方法がなかったものですから、まず技術の開発から着手しました。そして、赤外線センサーで被写体の背景を切り取るデバイスを、半年以上かけて製作したんです。「これは今後、すごく活用できるものになるはずだ!」と思っていたら、あとからKinectが出てきまして……(笑)
――「チームラボカメラ」をはじめ、御社ではオリジナルのプロダクトを多数発表されていますが、主にどのようなプロセスでそのアイデアを発想されているのですか?
個々のケースによって異なりますが、店舗のデザインや商業施設のお仕事が来たときに、「こういうものがあったらいいな」と思って、プロダクトを制作することが多いですね。また、お客様からご相談いただく中でプロダクトが生まれることも多いですね。
――「チームラボカメラ」は今回の展覧会以前にもパルコやラフォーレ原宿などのファッションビルや、ファッションブランドとのコラボレーションに多く活用されていますが、ブランディングの方針などあればお教えください。
このプロダクトに関しては、オファーをいただいた順に受けていっただけで、特にコントロールはしていないです(笑)。どんな企画にも応用できるプロダクトだと思いますので、いろいろな使い方をしてもらえれば嬉しいのですが、たまたまファッション業界からのお声がけが多かったということです。
――それでは、猪子さんから見て「こことコラボレーションをしたら面白いのではないか」という業界や、「ここに置いたら面白いのではないか」と思う場所などはありますか?
弊社の打ち合わせスペースには、チームラボカメラが置いてあるんです。打ち合わせというものは多くの場合、弊社でしても、クライアントの会社でしても、どちらでも構わないじゃないですか。そこをわざわざ先方から来てくださったのなら、ただ打ち合わせに来たというのではなくて、チームラボカメラの存在で来訪自体がちょっとした思い出になれば嬉しいですよね。
また、他の企業でも、各社の特徴を入れ込んで、ミーティングの場に取り入れていただけたら、打ち合わせに楽しさが加わるのではないかと思います。
――今後「チームラボカメラ」をパワーアップさせるとしたら、どのような「進化」を構想されていますか?
チームラボカメラを使って、映像を撮れるようにしたいんです。例えば、被写体が猫耳をつけているような合成をするなど、映像をリアルタイムで処理して、それがYouTubeにアップロードされるものです。空間全体で動き回っても、それが仮想世界で、動き回ってもきちんとレンダリングされるようなものになっています。
実は、今回の展覧会で披露したかったのですが、間に合わなくて。すでにプロダクトにはなっていますので、今後の企画で出して行けたらと思います。
――ありがとうございました。