前回の記事では、大学におけるICT教育の実情に加えて、実際に足利工業大学で行われている民間資格試験のカリキュラム導入について紹介した。今回も引き続き足利工業大学 工学部 非常勤講師の二宮千佐加氏による教育現場目線での話から紹介し、続いてNTTコミュニケーションズの菅原英宗氏、山下達也氏の話を基に運営側の検定に対する考え方や、工夫点などを紹介していこう。
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課題は"知識と実践の融合"、カリキュラムに民間のインターネット検定を導入
経験に基づくICT教育を実践する足利工業大学
足利工業大学 工学部 非常勤講師の二宮千佐加氏 |
実際に講義を行った二宮氏は「学生の皆さんは非常に熱心で、出席率が高いのはもちろん、双方向のコミュニケーションを採り入れた授業にも積極的に参加してくれました」と語る。この背景には、入学時に大学側で講義に対する意識付けなどをしっかりと行ってきたという部分も大きいといえる。
今回の受講対象は、工業大学を選んだとはいえ、知識レベルとしてはまだ高校生レベルに近い学生たち。しかもICTスキルにはバラつきがある。そうした中、建築や情報工学など専攻が異なる学生たち全員の選択必修科目という位置づけのため、全体のバランスを見ながらスキル向上を図る必要が出てくる。
「1年生が中心なのでまだ就職のことを強く意識していませんが、これから学習内容が各専攻分野に分岐していくため、今だからこそICTスキルの向上が求められます」と二宮氏は語る。
また、ICTスキルは授業の単位認定だけでなく就職活動や企業内でも必要になってくる。そうした意味で、足利工業大学の取り組みは大きな役割を担っているのだ。
さらにもうひとつ、二宮氏が非常勤講師になった理由もポイントといえる。実は、二宮氏は以前にNTTコミュニケーションズで働いていた、いわゆる社会人講師だ。今回は同社からの要請により、ICTスキルに関する深い知識と豊富な実務経験を持つ人材として、足利工業大学の非常勤講師を務めることになった。
「非常勤講師をお引き受けするにあたり、社会人講師としての経験を含めて、生徒に仕事でもプライベートでも自分で主体的に対応できるような基礎力を身に付けさせたい、というご要望がありました」と語る二宮氏。単純に"情報"を伝えるのならば学内の講師でも問題ないが、より"実践"と紐付いた講義を行うには、二宮氏のような社会人講師が適任だったのだろう。
講義では最終的に「ドットコムマスター ベーシック」の検定資格を受検するが、受講から1ヶ月程度経過した段階でドットコムマスター ベーシックよりも基礎的なレベルの「ドットコムメイト」を受検している。これにより、いま自分がどの程度のスキルレベルに到達しており、どのような項目が弱いのかなどを確認してもらうのである。
また、最終的な成績付与はドットコムマスター ベーシックの合否だけでなく、その点数も考慮している。「ドットコムマスター ベーシックの検定では、ドットコムメイトを受検した時より合格者が増え、平均点もアップしていました」と語る二宮氏。これは生徒にとって資格取得ができるというメリットに加え、ドットコムメイトの受検を通じた生徒全体に対するICTスキルレベルの把握、二宮氏の経験に基づいた講義内容などが大きく影響していると思われる。実際、こうした取り組みは生徒の熱意に反映されており、再試験の受検者も多かったそうだ。
企業はもちろん自社内でも資格制度を活用
それでは、足利工業大学にドットコムマスターを提供しているNTTコミュニケーションズ側では、どのような点に留意しているのだろうか。
アプリケーション&コンテンツサービス部長の菅原英宗氏 |
アプリケーション&コンテンツサービス部長の菅原英宗氏は「ドットコムマスターは裾野からトップクラスまで幅広いICTスキルレベルをカバーしており、さまざまなところで取得・活用されています。そうした中、学校関係においてはどれだけ教育現場に組み込みやすく、ICTのポジショニング向上、就職活動や入社後のスキルアップなどに活用できるかが重要です」と、学校教育に対する取り組みを語る。
企業においては、ICTリテラシー向上や評価制度への活用、資格取得による品質確保などに活用するケースが多いようだ。たとえば協和エクシオでは、若手社員の人材育成や最新IT技術に対する苦手意識克服、全社的なリテラシー向上に取り組むべくドットコムマスターを導入。2009年秋時点で、全社員3500名の中で何らかのIT資格を保有済みの社員約1700名を除き、約1800名がベーシック以上を受検している。
菅原氏は「協和エクシオ様では中間層を含め、お客様に提供する際の最低限のチャネリングに必要だという認識の下、全社員がそれぞれのレベルに応じた検定を受けていただきました」と語る。
一方で、NTTコミュニケーションズのグループ企業であるNTTコムチェオで運営する「CAVA(.com Advisor& Valuable Agent)制度」においてもドットコムマスターの資格が活用されている。CAVAとは、ドットコムマスターの合格者の中から、スタッフとして育成された、コミュニケーション能力や現場での対応力に優れ、ICTリテラシーの高い在宅スタッフであり、CAVAスタッフは、主にインターネット接続サービスのテクニカルサポートを行っている。 さらに「弊社にはOCNを含めてさまざまなコールセンターがあります。こうした業務では、現場に即したテクニカルな知識がなければお客様への対応ができません。そこでドットコムマスターの資格取得を通じて、弊社内におけるコールセンターの品質向上にも活用しています」と、菅原氏はドットコムマスターの社内利用について語る。