石川県金沢市が主催するデジタルメディアイベント「eAT KANAZAWA 2013」(イート・カナザワ、以下eAT)が、今年も錚々たるゲストと多数の参加者を迎えて1月25日、26日の2日間にわたり開催された。このレポートでは、同イベントの2日目午後に行われた、6つのテーマについて各分野のプロフェッショナルが語るセミナーの様子をお伝えする。

【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【1】
【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【2】
【レポート】クリエイティブの力を伝えるイベント「eAT KANAZAWA 2013」密着レポート【3】

Super Lecture 2「B+アート 明和電機のナンセンス・ビジネス展開」

ロボット研究者の石黒浩氏に続いて登壇したのは、明和電機の土佐信道氏。eAT実行委員会のメンバーであり、昨年も登壇したeATお馴染みのアーティストである。今回のテーマは「B+アート 明和電機のナンセンス・ビジネス展開」。石黒浩氏の「人間とは何か?」の探究に引き続き、土佐氏は「自分とは何か?」をセミナーのテーマにした。

2013年は明和電機の活動20周年にあたる。これまでに開発・発表されてきたさまざまなナンセンスマシーンの中で、ボイスメカトロニクスシリーズとして制作され、2010年に日本おもちゃ大賞のハイ・ターゲット部門を受賞した電子楽器おもちゃ「オタマトーン」誕生に至るまでの足取りを、自身の興味を振り返る形で話を進めた。

オタマトーンは、累計で12万個を販売した大人気商品である。どうやってこの大ヒット商品が生まれるに至ったのか。その原点には「声に対する興味」があった。具体的には、声が出る仕組みに対するメカニックな興味、そしてなぜ声は人の心を簡単につかむことができるのかという2つの探究的興味である。人はどうして、歌声や鳴き声に感動したり何か感情を揺り動かされてしまうのだろうか。

「声に対する興味」はその後いくつかのアイデアと制作活動によってカタチになっていった。しかし、ボイスメカトロニクスシリーズのひとつとしてのオタマトーンが誕生するまでには、実に7年の歳月を要した。開発には費用も時間もかかる。実際には、倒産寸前まで追い込まれた時期もあった。アイデアをカタチにする行程の繰り返しがオタマトーンの大ヒットに結実するまでの間には、さまざまな苦心や苦労、あるいはプロダクトに落としこむための試行錯誤があった。道のりは長かったが、最後にアーティストとして唯一無二の何かを生みだすためには「自分の中にダイブして、そこから引き上げてくる」探究こそが大切だと説く。

この姿勢はものづくりの根源なのかもしれない。手軽に検索でき、一昔前に比べ圧倒的に他者とのコミュニケーションがしやすくなった現代社会において、普通の人が何らかのクリエイションに参加し、生み出しやすくなった良い面はあるが、そこから生まれてくるものはどこか平均化されている印象のものが多い。その先へ行くにはもう一歩を超える何かが必要であり、それがオリジナリティにつながる。土佐氏にとってのその踏み超えは、自らの掘り下げだと語る。アイデアは突然出てはこない。アイデアは、アイデアの連鎖と自分の掘り下げから生まれてくるものだという言葉が印象的だった。

(取材:Mac Fan/小林正明、岡謙治)