新エネルギー・産業技術総合開発機構と東京電力は3月4日、共同で設置し2012年10月14日に完成した千葉県の「銚子沖洋上風力発電実証研究設備」の本格運転を開始するにあたり、現地で開始式を行った。それに合わせて漁船に乗船して沖合3kmに設置された風力発電設備の現場海域での見学・撮影会が行われたので、その模様をお届けする。
画像1。船上から撮影した洋上風車の本体。比較できるものがないので、わかりにくいがブレードが真上を向いた時は平均海面から126mある |
画像2。開始式でのテープカット。洋上風車、さらに将来的にウィンドファームができれば、新たな銚子の観光名所となるかも知れない |
日本における洋上風力発電普及に向けた第一歩
今回の洋上風力発電設備の風車そのものの全高は、ハブ高(ブレード(羽根)の中心軸までの高さ)が平均海面から80mというもの。3枚で構成されるFRP製のブレード1枚の長さは46mなので、真上を向いた時は126mにもなる。そして出力は2400kwだ。また、設置箇所は岸から約3.1kmという沖合で(画像3・4)、陸地までは海底ケーブルで結ばれている。水深は約11.9mだ。ちなみに日本では、すでに洋上風力発電設備は存在しているが、今回のように建設もメンテナンスもすべて洋上というのは初めてである。
ケーソン(基礎部分)は鉄筋コンクリート製で直径は21m、約5400tの重量があり、設置方式は「重力式(着床式)」が採用された(画像4・5)。重力式とは、海底地盤が比較的良好な場所に適したもので、ケーソン内部が空洞になっており、オモリとなるスラグを投入して5400tという重さにし、転倒しないように安定させている。
ちなみに、重力式は岩盤に杭を打ち込んでガッチリと固定させているわけではなく、海底面に載せている形である。そんな状態で津波などの影響で倒れる心配がないのかというと、洋上の鋼管やブレード部分の数100tに対して、5400tという圧倒的な重量で重心が非常に低くなっているので、東日本大震災時の津波と変わらない50年に1度という高波・高潮でも倒れない設計となっている。地震でも転倒の心配はない(ケーソン直下を通る形で断層が動き、数10mも隆起したり沈降したりして傾いたりしない限りは、大丈夫なようである)。
今回、こうして洋上風力発電設備が設置されたことの理由は、もちろん再生可能エネルギーに対する需要が世界的に増えており、日本でも例外ではないからだ。風力発電はほかの再生可能エネルギーと比較して、設備利用率が高く、発電コストが低いという経済性に優れた発電システムなので(画像7)、世界的に需要が増えているのだ。
洋上風力発電に限ったとしても世界では導入が右肩上がりで増えており、現在、累積で約410万kwとなっている(画像8)。中でも英国がダントツの導入量で、世界の半分強を占めており、200万kWを超えている(2020年までに1800万kWの洋上風力発電を開発するというロードマップを発表済み)。そのほかデンマーク、オランダ、ドイツ、ベルギー、スウェーデンなども設置が進んでおり、欧州は洋上風力発電先進国だ(画像9)。日本の洋上風力発電は、建設や保守を陸上から行っているものならこれまでにいくつかあり、世界的には1%と少ないが累積導入量では世界で10位である。陸上風力発電は設置が2000年代前半から急速に設置数が増えており、2011年現在1870基で約255万kwという具合だ(画像10)。
このように、風力発電に関しては陸上に限っていえば、日本も成熟した技術体系と豊富な実績を持つ。ただし、洋上風力発電は設置が陸上に比べて遙かに大変な上に、海底ケーブルを敷設する必要があったり、陸上よりも格段にメンテナンスに労力を必要としたり、機器そのものに塩害などに対する耐久性が求められたりすることから、陸上の約2倍のコストがかかるという。
しかし、洋上は陸地と異なって障害物がないために風力が強く(画像11)、発電効率はいい。これまで欧州で得られたデータによれば、陸上の発電効率25%に対し、洋上は40%以上という、倍近い値が出ており、発電コストをある程度は相殺できるというわけだ。
そもそも、コストをかけてまでなぜ洋上に設置するのかというと、将来的には風況や立地制約などの面で風力発電の適地が減少すると予想されているためである。風力発電の導入拡大を目指すには、強勢で安定した風が吹くこと、土地や道路の制約がないために大型風車の導入が比較的容易なこと、景観や騒音の影響が小さいといったメリットのある洋上方式を導入することは必須なのだ。
もちろん、洋上だからといって、ホイホイ建てられるわけではない。環境問題や漁業権問題があるし、風況や海況も重要で、どこの海にでも好きなだけ建てるというわけにはいかないのだ。というよりも、どこに建てればいいのか、どう建設すればいいのか、どうすれば滞りなく運用できるかといったデータが、日本には不足しているのである。
つまり、それらを調べるための実証研究設備の1つとして建てられたのが、今回の銚子沖の洋上風力発電設備というわけだ。ちなみに、日本海側の状況を調べるために、北九州市沖にも洋上風力発電設備が建設されている最中である(画像12・13)。
画像12。北九州市沖の洋上風力発電設備の設置箇所 |
画像13。2012年7月に観測タワーが建設済み(平均化メインからの高さ高さ85m)。洋上風車は建設中で、2000kW、高さ約80m、ローター直径約83mと、銚子沖のものに比べると少し小型 |
今回の洋上風力発電実証研究の実施体制としては、まずNEDOの役割だが、実現可能性調査に基づく有望海域の絞り込み、実証研究の事業計画の策定や体制の構築、第三者委員会を活用した開発項目の検証や事業進捗の確認、関係省庁や産業界へデータや技術動向を提供することにより、洋上風力発電の発展基盤を構築の4点だ。
そしてNEDOが管轄する形で、プロジェクトリーダーとして東京大学の石原孟教授が居り、さらに洋上風力発電システム実証研究を東京電力が指揮し、洋上風車と基礎の研究開発、施工、環境影響調査を担当。その下に、基礎構造の研究開発を鹿島建設が、洋上風車の研究開発と運転保守技術の研究開発を三菱重工業が、風車・基礎の動的解析を東京大学がそれぞれ担当する。また洋上風況観測システム実証研究は、東京電力が設計と建設、風況や波浪の観測、環境影響評価を担当し、東京大学が洋上風況と波浪の数値シミュレーション手法の検証と高度化を担当する。
具体的にどのような実証研究を目的としているのかというと、(1)「洋上風車特有の技術課題の克服」、(2)「洋上風況特性の把握」、(3)「環境影響評価手法の確立」の3点だ。
さらに(1)に関しては、「風力発電設備の塩害対策技術の開発」、「風力発電設備の健全性を遠隔監視する技術の開発」、「暴風・波浪に耐える基礎構造の開発」の詳細な3点のサブの目的に別れる。また(2)に関しては、太平洋側、日本海側で風況特性が異なることから実測に基づき洋上風況特性を明らかにすることが目的だ(そのため、銚子沖と北九州市沖の2カ所に建設される)。(3)に関しては環境(生物、水質など)調査を設置前と設置後に実施して、調査結果に基づき環境影響評価手法を確立するとしている。
もう少し具体的にいうと、風力発電設備の塩害対策技術の開発に関しては、ブレードの軸受け部分の「ナセル」と呼ばれる増幅器、発電機などを収納する機構の塩害対策と遠隔監視モニタリング、ブレードのエロージョン(腐食)対策と落雷対策、鋼管(支柱)の気象および海象による振動解析、ケーソンの運転保守の解析(船舶や作業安全)および海象による応力解析が行われる(行われてきた)形だ。なお、ナセルは銚子沖と北九州市沖で内部構造を変更しており、前者はギア式、後者はギアレス方式を採用している(画像14・15)。
またブレードに関しては、1分間に最大で16.9回転(約3秒半で1回転)し、その時の先端の速度は時速250kmから300kmに近くなる計算だ(画像16)。具体的にどれだけの平均風速でどれぐらいの平均出力並びに発生電力量があるかというと、テストで行われた際のデータでは、10分間の平均風速が秒速11.7mの時に、平均出力2428.7kW、1時間当たりの発生電力量404.8kWhという値が公開されている。逆に最も平均風速が遅かった秒速8.7mの時では、平均出力が1602.6kw、発生電力量は262.5kWhだった(画像17)。
遠隔監視に関しては、風車から約285mの距離を置いて同時に建てられた「洋上風況観測タワー」によって行われる(画像18)。こちらのケーソンは風車本体のものと同様に鉄筋コンクリート製となっており(基礎直径は風車本体よりも若干小さい18m)、重力式を採用(画像19)。そのケーソン上に平均海水面から高さ100mの鋼管トラス鉄塔として建っている。
設置されている観測装置は、三杯式風速計22基、矢羽式風向計23基、超音波式風向風速計3基、エアロゾルの移動速度を調べて上空の風速を把握する「ドップラーライダー」(ライダーはLight Detection And Rangingの略で、電波ではなくレーザーを使ったレーダーのこと)1基、鳥類レーダー1基のほか、気圧計、温湿度計、雨量計、視程(大気の見通し)計などが備わっており、あらゆる情報を収集する仕様だ。これによって実データを集め、発電、風況、環境の把握を行い、今後、洋上風力発電の数を増やして商用運転していく際の基盤を構築することになる。
そして気になるのが環境への影響というところ。原子力発電所のように壊れたら致死的な放射性廃棄物をばらまいてしまったり、火力発電所のように化石燃料を使うためにCO2が多量に発生してしまったりする問題はないが、建設することそのものが環境へ負荷をかけるのは事実だ。陸上風力発電とは異なり、まだ洋上風力発電の環境影響評価手法は確立されておらず、今回は、14の項目に関して調査が行われている。
その14の項目とは、海底地形、流行・流速、電波障害(漁業無線)、水中騒音、低質・地質、藻場(海藻草類)、底生生物(マクロベントス)、漁業生物、海産ほ乳類、鳥類トランゼクト調査、鳥類定点調査、鳥類レーダー調査、鳥類衝突感知システム、観測タワー基礎などへ蝟集する魚類などの確認だ。
陸上の風力発電では発生する低周波により付近の住民が体調の悪化を訴えるなどの問題が出ていることから海中の魚類などへの影響も心配されるし(水中はより遠くまで音が伝わりやすい)、ブレードへの鳥類の衝突といった問題もある。将来的には、銚子沖にいくつもの風車を建て、東洋のウィンドファーム(風車が多数まとめて設置された風力発電設備のこと)を作る構想もあるが、そのためにはきちんと環境影響を調査し、影響を最小限に抑える形で進めなくてはならないというわけだ。
今後の予定としては、2014年度まで運転・保守期間として調査と実証が進められる。洋上風力発電システム実証研究としては、日本で初となる発電量・稼働率などの解析、運転保守の高度化というコスト検証、塩害・落雷・エロージョン対策や解析、気象・海象による基礎への影響解析、動解析モデルの検証(シミュレーション)といったガイドラインの整備が進められる予定だ。
一方、洋上風況観測システム実証研究に関しては、こちらも日本発の洋上風況観測データの収集、通年の風況予測や台風時の強風予測の高度化(シミュレーション)、海象観測(波浪など)、通年の波浪予測、台風時の波浪予測の高度化(シミュレーション)という、洋上風力発電の実用化の評価を進めていく。
さらに今回の実証研究の成果を広く普及させ、前述した洋上ウィンドファームの日本での実現に貢献していくとしている。運転開始式では銚子市の野平匡邦氏市長も挨拶しており、この洋上ウィンドファームは、銚子の新たな希望として期待できることから、実現に対して前向きな発現をしている。10年後か20年後かはまだわからないが、それが実現した時にはまたぜひレポートしたいと思っているので、これを読んでいただいている方々も気を長くして楽しみにお待ちいただきたい。
100mの建造物の巨大さに圧倒
というわけで、続いては、実際に風車や観測タワーを間近で見てみた感想だ。まずは陸上から見た感じだが、3kmの距離があっても、さすがに100mある建造物なので、海辺にいれば、風車の周りに障害物がないということもあってよく見える(画像20・21)。一見すると、それほど遠くにはないように見えてしまうのだが、これは風車が巨大だからだ。誰でも実際に船に乗って近くまで行ったら、その巨大さに圧倒されることになるはずである。画像だと、周囲に比較できるものがないのでその大きさが伝わりにくいのだが、海面上に漁船が写っているものもあるので、そのサイズの差を見比べてみてほしい。
ちなみに、夜中の静まりかえった状態ならわからないが、少なくとも取材した時は、さすがに3kmも離れているので、ブレードが風を切って回る音などは一切聞こえてこなかった。近年、陸上の風力発電では、近隣の住民が体調が悪くしてしまい、その原因が風力発電の騒音や低周波だという話があるが、住民への影響はなさそうである。ただし、魚類など海中の生物にとってはわからないので、そうした部分の環境影響評価はきちんと行ってもらいたいところだ。
そしていよいよ最寄りの漁港から漁船に乗って、沖合3kmに建つ風車本体と観測タワー近傍の海域へ向かうことに(画像22・23)。岸から3kmというのは船であってもそこそこ時間がかかる。早足で歩けば20分程度だろうが、海の場合3kmというと、落ちたら岸まで泳ぐことはトライアスロンの経験者でもない限り到底不可能に思える距離である。幸い、万が一に備えて装着したライフジャケットに対し、「着けていてよかった」と胸をなで下ろすような緊急事態にはならなかった。
ただし、岸から遠ざかると徐々に波しぶきがすごくなってきて(画像24)、1回、頭からしぶきを被って海水がしょっぱいのを何10年ぶりに味わった(笑)。ちなみに、その時一緒にカメラも濡れて悲鳴を上げるハメになったので、その内、漁船に乗っての洋上風車を間近で見る鑑賞ツアーとかが始まって船に乗った時は、カメラが濡れないようには注意したほうが良いだろう。
そんなこんなで巨大だからずっと目の前に見えているのに、なかなか近づかないという感覚を味わいつつ、徐々に接近(画像25)。近づくにつれ、最初は望遠レンズで撮影していたものが、徐々にファインダー内に収まらなくなってきて、もっと広角の標準レンズに交換して撮影する。最初はまっすぐ前を向いていたのに、どんどん見上げる形になってきて、同じ漁船に乗船した記者・カメラマンからも「でかい!」の感想。さすがに間近まで来ると大きい(画像26~28)。
しかし、ブレードは46mという大きさにも関わらずブンブン(と音を立てていそうな勢いで)回っている。スーパーカーとか新幹線並みの速度で回っていてもいいのだろうか、と思うほどである。ちなみに、どれぐらい軽快に回っているかというのは、動画でご確認いただきたい(動画1)。
ちなみに、この速度で回っているブレードに鳥が当たったら、まさに血煙として粉砕されてしまうだろう(スプラッタな表現で恐縮だが)。ただし、見ていた感じでは、風車の近くを飛んでいる鳥はいなかったようだ。近隣を飛んでいる海鳥はオオミズナギドリというそうだが、我々の乗った漁船には興味を示して、その周囲を手が届きそうなほどの距離をくっついて飛んでいたものの、風車の方にはあまり近づいてはいないようであった(画像29)。画像で確認しても、鳥がナセルに留まっているものはなかった(画像30)。
もちろん、たまたま接近した時間にはいなかったというだけかも知れないし、沖合3km・高さ80mの人工物の上というのは、ナセル上が平らだとしても巣作りするには適さないのかも知れないし、宿り木的に使うにしてもその高さまで上がるのは面倒なのかも知れないし、ブレードが危険なのがすでにわかっているのかも知れない。ともかく、陸上ではブレードに鳥が衝突する事故が問題視されていたりするので、そうならないことを願いたい。
それにしても、こんな巨大なものが、海底下の岩盤に直接杭を打ち込まないで建っていてもいいものなのかとちょっと心配してしまうところ。ケーソンを設置した海底面は、ダイバーの手によって石が敷き詰められており、±5cmの精度で整地されている。その敷き詰められた石たちの上に巨大で超重量物のケーソンが乗っているわけだが、ケーソンを設置するまでも大変だったようだ。スラグを詰めない状態で運んだので2300tと、最終的な重量に比べれば半分以下なのだが、それでも日本最大級の起重機船が1600tまでしか吊り下げられないので半分水没させて浮力も利用して吊り下げたり、波の影響を受けないよう船の真ん中から吊り下げたりと随分と工夫したそうである(画像31・32)。
画像31。フローティングドック船(FD船)に積み込んで運ぶところ。この時点ではケーソンの重量は2300t |
画像32。現場でケーソンを設置し、支柱を立て始めたところ。ケーソンを設置するのは波の静かな時でないと厳しいため、天気とのにらめっこだったという |
あと、風車などを見ていて感じたのが、(海の)生き物たちのたくましさ。風車の柱の根元、海面と接する辺りのケーソンの上端の黄色い部分には、もう底生生物や藻類らしきものが付着していた(汚れもあるようだが)。きれいなイエローが汚れてしまっている感じだが、まぁ、その手の生き物たちにとっては絶好の住み処ということなのだろう。
また、3kmを船で移動してより強く感じたのが、どれだけメンテナンスをするのが大変かということ。さすがに直接風車や観測タワーに接岸して、プラットフォームに足を踏み入れることはできなかったので、直接体験したわけではないが、桟橋があるわけではないので、乗り移るだけでもなかなか大変なのではないかと思われる(画像33)。まして、暖かくて海が荒れてない時期ならいいが、故障はいつおきるかわからないだろうし、メンテナンスはまさに命がけだろうと思える。
あと気にかかったのは、太平洋を一望できるこの素晴らしい景観の中に、風車や観測タワーという巨大な人工物が建ったことで、景観が変わったこと。それを「損なわれた」と残念がる人もいるだろうと思う。ただし、個人的には、観測タワーは致し方ないにしても、風車自体は色味も含めてきれいに作られているので、無粋な雰囲気は感じなかった。「新しい見るべきものができた」という感じである。将来的に数10基の風車が立ち並んでウィンドファームが実現したら、なかなかいい景観になるのではないだろうか。
ともあれ、CO2の増加による気候変動が進んでいることに加え、福島原発の事故により、日本だけでなく世界的に見てもエネルギー問題は確実に転換点を迎えており、洋上風力発電は今後、需要が増していくのは必須と思われる。風力発電は、遠望してもその動きが目に見えてわかる唯一といっていい発電システムだと思われるので、将来的には各地の海に新たな観光名所を作っていただきたいところだ。そのためにも、今後の2年間でしっかりとデータを収集して、洋上風力発電設置の動きを加速させてほしいものである。