富士通研究所(以下、富士通研)は、無線回線や国際回線などの様々な通信環境を経由したアプリケーションの利用において、それぞれの環境に最も適した通信プロトコルを自動的に選択することで、通信をより高速化する技術を世界で初めて開発したと発表した。

今回、富士通研は、利用条件ごとに各通信プロトコル特性をあらかじめモデル化し、実際に利用する際にその条件から各通信プロトコルの通信性能を高速に推定し、複数の通信プロトコルの中から最も性能が良くなるプロトコルを自動的に選択する技術を開発した。

開発した技術の特長は「利用条件に応じた通信プロトコル特性のモデル化技術」、「最適プロトコルの推定・選択技術 」。

利用条件に応じた通信プロトコル特性のモデル化技術では、複雑な条件の中から効率よくプロトコルの通信性能を推定するために、ネットワーク特性(往復転送遅延、パケットロス率、利用可能帯域)、およびアプリケーション特性(データサイズ、データ間隔)と、通信性能(転送時間や応答時間)との関係を定義した通信特性モデルを構築する技術を開発。

通信特性モデルで定義される各プロトコルの通信性能は、疑似ネットワーク特性と疑似アプリケーション特性を用いて、シミュレーションやエミュレーション環境において測定される。また、全ての条件を網羅して性能を測定することは困難であるため、測定済みの性能をもとに他の条件の特性を予測する補間技術によって、従来は困難であった精度の高い通信特性モデルの構築を実現した。

最適プロトコルの推定・選択技術では、上記から得られた通信特性モデルを基に、通信性能を推定し、最良の通信性能を発揮するプロトコルを選択する技術を開発。ネットワークを介して送受信したパケット情報からネットワーク特性を計測し、さらに、アプリケーションの送信データからアプリケーション特性を計測する。

収集したネットワーク特性、アプリケーション特性を、あらかじめ用意した上記の通信特性モデルに当てはめることにより、各プロトコルの通信性能を高速に推定。推定した各プロトコルの通信性能の中から最も性能の良いプロトコルを選択し、通信に利用する。

開発技術の概要

同技術により、様々な利用シーンで通信性能の向上が期待でき、例えば、モバイル端末においては、移動に伴う通信環境の変化に応じて最適なプロトコルが選択される。データセンター間通信においては、使用するアプリケーションの種別に応じて、またISP(Internet Services Provider)における拠点間接続においては、拠点間の距離に応じて最適なプロトコルが選択される。

開発技術の利用シーン

これらの利用シーンにおいて、インタクティブ通信やファイル転送を行う場合に、通信環境(往復遅延時間とパケットロス率)に応じて、どの通信プロトコルが適しているかが異なる。

今回開発した技術により、このような様々な利用条件においても複数のプロトコルの中から最適なプロトコルを自動的に選択し、より通信性能を向上。これにより、クラウドを利用した様々なネットワーク経由でのサービスを、どこにいてもユーザーが意識することなく快適に利用できる。

本利用シーンにおける各プロトコルの適応領域

富士通研では、本技術を複数の通信プロトコルを用いて通信を高速化する通信ミドルウェアとして2013年度中に実用化することを目指す。