地球規模の深層海流の大循環(海洋大循環)をもたらしている「南極底層水」はこれまで、南極大陸周縁の3海域で生成されていることが知られていたが、新たに南極昭和基地の東方沖にも生成海域があることが、北海道大学低温科学研究所の大島慶一郎教授と深町康・准教授を中心とするタスマニア大学、東京海洋大学、国立極地研究所などの共同研究で分かった。この海域で多量の海氷が生産されることで、1秒間に東京ドーム1杯分ほどの大量な南極底層水が生成されているという。
「海洋大循環」は南極海と北大西洋の高緯度地域で“重い海水”が沈み込み、これが低層水となって全海洋の深層に拡がることで起きている。特に南極海では、海氷が作られる際に水の塩分の大半がはき出されて、世界で一番重い低温・高塩分の海水が多量に作られ、南極底層水となっている。南極底層水を起源とする海水は、地球の全海水の30-40%を占め、地球上の気候変動にも大きく影響すると考えられている。
南極底層水の生成は、南極大陸周縁のロス海、ウェッデル海、アデリーランド沖が3大生成海域として知られているが、人工衛星などの観測により、南極昭和基地から東方1,200キロメートルにあるダンレー岬沖でも南極底層水が生成されている可能性が示された。
研究チームは2008 年2月からダンレー岬沖の1カ所の海中に観測機器をロープで係留し、1年間の水温・塩分・流速の長期連続データを得た。その結果、重い海水が陸棚から峡谷に沿って流出し底層水となっていく様子を直接捉えることに成功した。さらに人工衛星の合成開口レーダー観測で、ダンレー岬沖では最大規模の新生海氷域が形成されていることなどが分かった。この海域での南極底層水の生成量は平均して毎秒65-150万立方メートル(東京ドーム1 杯分程度)と推定され、 全南極底層水の生成量の約10%に相当するという。
ダンレー岬沖で生成された底層水は、西のウェッデル海へと広がっていくと考えられることから、今回の発見は、今までの海洋深層循環の様相を一部描き換えることにもなりそうだ。研究成果は、英国の科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス(Nature Geoscience)」(オンライン版、2月24日)に掲載された。