九州大学(九大)は、水素貯蔵合金として知られる鉄チタン(FeTi)合金を容易にかつ安価で利用できる新たな製造技術を開発したと発表した。

成果は、同大 大学院工学研究院 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER) 水素貯蔵部門の堀田善治 主幹教授、同 秋葉悦男 教授らによるもの。詳細は、米Elsevierの科学雑誌「International Journal of Hydrogen Energy」オンライン版に掲載された。

水素貯蔵合金としては、一般的にLaNi5、Mg2Ni、FeTiなどの合金が知られているが、LaNi5は室温で利用できて性能は優れているものの、希土類元素のLaを含むことから高価で資源的にも課題がある。またMg2Niは、軽量かつ安価ながら200℃以上の高温でないと利用できないという課題があり、FeTi合金は、身近な金属元素で最も安価だが、水素貯蔵合金として活用するためには、使用前に圧力を30気圧に設定し、450℃という高温の環境下で活性化処理を行う必要があったほか、一度、大気中に曝した後は、再度高い水素圧力と高温下での活性化処理が必要になるなど利用方法に課題があった。

そこで研究グループは今回、活性化処理を要しないFeTi合金を実現する技術の開発を進めたという。具体的には、強度が高く脆いために塑性変形しにくいFeTi合金を、巨大ひずみ加工装置で、強制的に変形させ、大量ひずみを付与することで、転位、結晶粒界などの格子欠陥を導入したところ、水素吸蔵・脱蔵を繰り返した後に大気中に曝しても、再度、活性化処理することなく再度利用できることが確認されたという。

研究グループは、活性化後、大気に触れても活性を失うことなく、そのまま使用可能になったことについて、従来の水素貯蔵合金とはまったく異なる性質を付与することに成功したもので、これにより水素貯蔵合金の取り扱いが大幅に緩和されることになるとコメント。

また、今後は、FeTi合金への大量格子欠陥の導入における投入ひずみ量の影響や、活性化処理が不要となったそのメカニズムの解明などについての系統的な実験を行っていくほか、一般的な圧延技術などの加工プロセスを行うための研究開発を進め、大量生産性への指針を構築していく予定としている。

金属や合金は一般に規則的に原子が配列した結晶状態だが、変形すると格子欠陥が生じる。格子欠陥には、原子が存在しない点欠陥(空孔)、原子面が抜けた時にできる線欠陥(転位)、原子配列方向が異なる領域が交わった結晶粒界(面欠陥)がある。大量に加工した時に、このような欠陥も大量にできることになる

B2構造とは、体心立方構造をベースに、単位胞格子の体心の位置と角の位置で2つの異種原子が交互に並んだ金属間化合物。αFe体心立法構造(左)と、FeTi B2構造(右)

巨大ひずみ加工とは、試料を拘束条件下で加工する方法で、変形しても断面積が変化しないことから繰り返し加工が可能であり、大量の塑性ひずみが導入できる加工のこと