京都大学(京大)は、伊ミラノ・ビコッカ大学の協力を得て、高分子の鎖同士を結びつける架橋部位を導入した「多孔性金属錯体(PCP)」を用いて、その規則的な1次元細孔内のナノ空間を反応場としてプラスチック分子の合成を行い、鎖が1本1本同じ方向に高精度で整列した高分子材料を開発すると同時に、新しい分子連結法の開発に成功したと発表した。

成果は、同大 工学研究科の植村卓史 准教授、同大 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)長の北川進 教授、同 磯田正二 客員教授、同 辻本将彦 研究員とビコッカ大のピエロ・ソッツァーニ教授らによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間2月25日付けで英科学誌「Nature Chemistry」オンライン速報版に掲載された。

現代の生活に必要不可欠なプラスチックは、分子が鎖状にいくつも連なった高分子により構成されているが、その高分子鎖は、通常、糸がぐしゃぐしゃに絡まり合ったようにして存在しているため、潜在的に有している特性を活かし切れておらず、もし、その絡み合いをほどき、精密に整列させることができれば、力学物性、光学特性、異方性において優れた材料を産み出すことが可能になると期待されている。

しかし、これまでさまざまな手法を用いて、高分子鎖の配向の制御が行われ、強くて耐久性のある繊維や機能性光学フィルム、エンジニアリング・プラスチックなどが開発されてきたものの、完全に鎖を整列させることは困難で、熱や溶媒処理に対して弱いものも多く、さまざまな高分子材料に適用できる方法はなかった。

研究グループはこれまで、金属イオンとそれをつなぐ有機物からなり、規則的なナノサイズの空間を有するPCPの構造を反応場として利用することで、有用なプラスチック材料を開発するなどの成果を達成してきたが、今回の研究では、骨格の一部に高分子鎖同士をつなぎ合わせることができる「ジビニル基」を導入したものを用いて、PCPの有する1次元細孔内に高分子の原料となるモノマー「スチレン」を導入後、その連結化と架橋を同時に行い、得られた複合体からPCPのみを除去することで、1本1本の高分子鎖を同じ方向に整列させた高分子を抽出する「ホスト-ゲスト架橋重合法」を開発することに成功したという。

画像1。多孔性金属錯体(PCP)

画像2。ホスト-ゲスト架橋重合法のイメージ図

同重合法で得られた高分子を調べたところ、鎖同士が架橋した「ポリスチレン」であることが確認されたことから、粉末X線回折測定を行ったところ、一般的な合成法では鎖がぐしゃぐしゃに絡まっているために見られないはずの回折ピークを確認することに成功したという。

この結果は、PCPの1次元空間を反応場とすることで、高分子鎖の配向が制御され、整列状態にあることを示唆するものであることから、さらに透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、高分子鎖が分子レベルで1次元的に整列している状態が確認されたという。

このような整列状態は高分子鎖同士が架橋されているために安定しており、通常のポリスチレンなら溶けてしまう有機溶媒でも溶けず、またドロドロになってしまう約110℃の熱の倍近い約200℃で処理しても、その整列構造が乱れることはなかったほか、比重測定を行ったところ、通常の密度は1.04g/cm3(スーパーの透明なポリ袋は0.91~0.94g/cm3、白いレジ袋は0.94~0.97g/cm3であるとされている)だが、1.13g/cm3と高く、これによりぎゅうぎゅうにポリスチレンの鎖が整列していることが判明した。この結果は、単なる汎用プラスチック材料であるポリスチレンなどであっても、耐溶剤・耐熱性を備えた高強度スーパーエンプラとして生まれ変わる可能性があることを示すものだと研究グループでは説明している。

画像3。分子レベルで整列したポリスチレンの電子顕微鏡写真

なお、研究グループでは同重合法について、ほかのさまざまなビニル高分子にも使えるという汎用性があることも確認しており、実際に原料モノマーをスチレンから「メタクリル酸メチル」に代えて実験を行っても、前述のポリスチレンと同様の整列状態を示す「ポリメタクリル酸メチル」の合成に成功したとしている。そのため、同重合法を活用することで今後、世界的な需要の高まりが期待されるエンプラに汎用プラスチックを容易にレベルアップできるようになることから、高機能プラスチックに代わり、幅広い分野での利用が期待されるようになるとコメントしている。