京都大学(京大)は、溶液中で動作可能な「周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)」を新たに開発し、細菌由来のDNAを観察したところ、その二重らせんおよび微細構造を水溶液中で非破壊に観察することに成功したと発表した。

成果は、同大 工学研究科の山田啓文 准教授、同・産官学連携本部の小林圭 助教らによるもの。研究の詳細な内容は、米国化学会発行の「ACS Nano」2013年2月号に掲載され、その観察像が表紙を飾った。

一般的に原子間力顕微鏡(AFM)は、探針が試料に接触した状態で測定を行うため、その有限な接触面積より微細な分子構造を観察することは困難である。また、探針が試料に強く接触するため、生体試料の構造変化やダメージが起こるという問題があった。しかし、今回、研究グループが新たに開発したFM-AFMでは、液体中で探針と試料との間に働く微弱な力を検出することが可能なため、DNAやタンパク質分子などの柔らかい生体分子試料の構造を破壊することなく、"生きたまま"の状態でナノスケールの観察ができる仕組みとなっている。

DNAの構造は1953年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによって提唱されたが、その二重らせん構造の解明にはこれまで主にX線による構造解析が用いられてきたが、今回の研究で得られたDNA分子の水中FM-AFM表面形状像は、これまでに解明されてきたDNAの構造とほぼ対応した二重らせん構造を明瞭に表しているだけでなく、従来の単結晶化した試料を用いた構造解析では明らかにすることが困難であった、DNA分子の平均的な構造からの局所的な違いも浮き彫りにすることに成功したという。

また、従来のAFMでは観察不可能であった、DNA二重らせん構造の骨格を構成している個々の官能基(リン酸基)の明瞭な分解にも成功しており、高い分解能を有することも示されたとしている。

なお、研究グループでは今回の成果により、今後、FM-AFMの利点を活かしたナノバイオデバイスの「その場」動作特性計測や、生体機能に結合した生体分子の「生きたまま」ナノスケール構造計測などへの応用が期待されるようになるとコメントしている。

画像1(左)は、FM-AFMで撮影した二重らせんDNA分子(pUC18プラスミドDNA)の水溶液中における分子像。画像2(右)は、画像1の画像を部分拡大したもの。画像2および画像3の中の赤い矢印と青い矢印は、DNAの二重らせん骨格の間隙に交互に現れる、幅の広い溝(主溝)と幅の狭い溝(副溝)をそれぞれ示している

画像3。画像2で観察された構造に対応する二重らせんDNAの構造モデル