宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームに搭載している「全天X線監視装置(MAXI:Monitor of All-sky X-ray Image)」の観測により、はくちょう座方向に「極超新星爆発」の痕跡を見つけたことを発表した。

同成果は、JAXA 宇宙科学研究所 ISS 科学プロジェクト室の木村公 開発員、同 ISS 科学プロジェクト室の冨田洋 主任開発員、同 上野史郎 主任開発員、大阪大学理学研究科の常深博 教授、同 大学院修士課程の佐々木将軍氏、理化学研究所 基幹研究所の杉崎睦 研究員、宮崎大学 工学部 大学院修士課程の花山喬則氏、同 吉留幸志郎 氏およびMAXIチームらによるもの。詳細は日本天文学会の欧文雑誌「Publication of Astrophysical Society of Japan(PASJ)」2月25日発行号に掲載された。

銀河には超新星爆発が生み出した高温ガスが数多くあり、それをX線カメラで撮影するとバブル(泡)のように見え、天の川銀河以外の銀河では、超新星爆発で作られるバブルよりもさらに大きなバブル(スーパーバブル)も見つかっている。

天の川銀河でも、スーパーバブルの存在が予測されているものの、その見かけが大き過ぎるため、従来の視野の狭い望遠鏡では上手く観測することができないという課題があったが、MAXIに搭載されているX線CCDカメラ「SSC((Solid-state Slit Camera)」により宇宙に広がった超高温度領域の分布の観測が可能になり、今回の研究では、SSCを用いて地球から宇宙を見上げた際の半径の角度が11度にもなるはくちょう座の大構造の調査が行われた。

MAXI/SSCで30カ月間観測して得られた0.7keV~7keVのエネルギーバンドの全天画像。中心が銀河の中心で、横軸は銀径、縦軸は銀緯の銀河座標で表されている。X線のエネルギーとしては赤色が低く、青になるほど高い。丸い点がX線の点源で、右側の大きな赤い丸点がベラ星雲で、はくちょう座網状星雲と併せて明るく見える (c)JAXA

はくちょう座巨大バブルとして囲った中の拡大図。MAXI/SSCにより、詳細な観測が可能になった (c)JAXA

MAXI/SSCによる観測から、重金属からの輝線が検出され、その温度が300万度になることが判明したほか、全エネルギー・大きさなどの測定が行われた結果、はくちょう座の高温領域は、2~300万年前に通常の超新星爆発の100倍に達するエネルギーによって作られたことが判明。研究グループでは、これは、太陽質量の数十倍の星が極超新星(ハイパーノバ)爆発を起こした結果だと解釈できると説明する。

ちなみに通常の超新星爆発は天の川銀河では約50年に一度程度の割合で発生するといわれているが、ハイパーノバは10万年から100万年に一度しか起こらないと予想されており、その巨大な爆発のエネルギーは、宇宙で最大の爆発であるガンマ線バーストを起こし、超高エネルギー宇宙線の起源天体に関連し、強い重力波も出すと考えられており、銀河全体の進化に大きな影響を与えるとされているという。

はくちょう座巨大バブルの観測で得られたX線スペクトル。Fe、Ne、Mgの輝線が確認され、元素組成や温度などの情報を得ることが可能となり、その結果、約300万度の高温ガスであることが判明したという

なお研究グループでは、MAXIの活用が今回の極超新星爆発の痕跡を天の川銀河で発見した世界初の成果につながったとするほか、MAXIを通じて、数多くのX線新星や知られていなかったブラックホールの振る舞いなどが観測されており、2014年に打ち上げが予定されている「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALET)」と組み合わせて、ISSをプラットフォームとして活用することで、より充実した観測体制が整うことが期待されるとコメントしている。