京都大学(京大)は、「ルテニウム酸化物」の超伝導状態が磁場によって壊されて通常の金属状態に変わる際の「相転移」を研究し、この相転移が水が氷になる場合と同じような1次相転移になっていること、つまり通常の超伝導体の場合とはまったく様相が異なる、急激な超伝導の壊れ方をしていることを明らかにしたと発表した。
成果は、京大 理学研究科の米澤進吾 助教、同・修士課程学生の梶川知宏氏、同・前野悦輝 教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、アメリカ物理学会が2月15日に発行した「Physical Review Letters」110巻第7号に掲載された。
超伝導現象は、すでに広く社会に利用されており、例えば、病院での磁気共鳴イメージング(MRI)装置やLHCといった大型加速器などに応用されているほか、リニアモーターカー(磁気浮上列車)や超伝導送電線などのエネルギーロスの格段に少ない次世代インフラや、超伝導の性質を利用した情報素子などへの応用も期待されている。しかし、超伝導と磁場はほとんどの場合で相性が悪く、ある強さ以上の磁場がかかると超伝導状態は壊されて通常の金属の状態に戻ってしまうことが知られている。
この超伝導が壊れるメカニズムは、磁場と超伝導がどのように影響し合っているのかという基本的な問題と関係しており、超伝導の基礎研究の重要なテーマの1つとなっているほか、より高い磁場中で使える超伝導電線や超伝導磁石を実現するためにも、磁場と超伝導の相互作用メカニズムの理解が不可欠となっている。
今回の研究対象であるルテニウム酸化物「Sr2RuO4」は1994年に研究グループが発見した物質で、その後の世界各所の研究により、「スピン3重項超伝導体」の最有力候補と考えられるようになっており、それを実証して、新たな性質を引き出すことは、物理学における重要テーマの1つとされている。
今回研究グループは、ルテニウム酸化物の超伝導状態が磁場によって壊されて通常の金属状態に変わる際の相転移を研究することで、絶対温度0.8K(-272.4度)以下の極低温では、この相転移が水が氷になる場合と同じような1次相転移になっていることを発見した。
通常の超伝導体は2次相転移のみを示すことから、今回の結果はまったく異なったメカニズムで超伝導が壊されていることを示すであり、この結果、これまで知られている超伝導1次相転移のメカニズムはSr2RuO4には当てはまらないことが考えられると研究グループでは説明しており、これまで見落とされていた未知のメカニズムで超伝導が壊されていることが示唆されたとする。
具体的には、同大で作製したSr2RuO4の純良結晶を用い、磁場を変化させた時に試料の温度が変化する「磁気熱量効果」を調べたところ、1次相転移の特徴であるエントロピー量の不連続的な変化と潜熱が観測されたほか、磁場を上昇させた時と下降させた時での超伝導転移の起こる磁場が異なっていることを確認。これらは、1次相転移の特徴である「過冷却現象」(または過熱現象)が起こっていることを示すものであり、相転移が1次相転移になっていることが実証された結果であるという。
画像6(左)は、今回の研究のために研究グループが開発した高感度の「磁気熱量効果測定装置」。画像7(右)は、装置中央部の温度計部分の模式図。温度計とヒーターが低熱伝導線で空中に吊されており、試料は温度計とヒーターで挟むようにして設置する。非常に小型の温度計とヒーターを用いることで、1mg以下の微小試料の測定が可能になったという |
なお研究グループでは、今回の研究で明らかになった1次相転移の起源を今後の研究により明らかにすることは、スピン3重項超伝導体の有力候補であるSr2RuO4の超伝導をより深く理解するために必要になるとするほか、超伝導が磁場によって壊される新たなメカニズムの解明は、超伝導の導電線などへの応用に関しても有用な指針を与えられるものになるとコメントしている。