宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月18日、土星探査機「カッシーニ」のデータを解析した結果、太陽系を含む銀河系(天の川銀河)においてどのように高エネルギー粒子(宇宙線)が作り出されているのかという問題に関する新たな知見を得ることに成功したと発表した。

同成果はJAXA 宇宙科学研究所のAdam Masters氏、同L. Stawarz氏、同(東工大ELSI)の藤本正樹氏、インペリアル・カレッジ・ロンドンのS. J. Schwartz氏、アテネアカデミーのN. Sergis氏、ロスアラモス国立研究所のM. F. Thomsen氏、仏国立科学研究センターのA. Retino氏、JAXA 宇宙科学研究所の長谷川洋氏、ボストン大学のB. Zieger氏、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのG. R. Lewis氏、同A. J. Coates氏、仏国立科学研究センターのP. Canu氏、インペリアル・カレッジ・ロンドンのM. K. Dougherty氏らによるもの。詳細は2月17日付の英科学誌「Nature Physics」に掲載された。

銀河系は宇宙線で満たされており、その強度は地球が置かれている宇宙環境を決める重要な指標となるため、その生成の仕組みの解決に向けた研究が進められており、2月15日にはやはりJAXAが、超新星残骸が生じさせた超音速の衝撃が宇宙線陽子の生成源であるという研究成果を発表している。

また宇宙空間には磁場が存在していることから、宇宙線の研究を進めていくためには磁場の効果を理解する必要があるが、磁場の効果を地上の常識から予想することは困難であるため、実際の測定データに基づいた研究が求められていた。しかし、数千光年の彼方で起こる超新星爆発に伴う衝撃波を詳細に分析することは難しいという課題があった。また、太陽系にも電離ガスの超音速流は存在しており、衝撃波を観測することが可能ながら、弱いものがほとんどで、超新星残骸が発生させるレベルの強い衝撃波に関する知見をそこから得ることは困難であったという。

しかし、1997年10月に打ち上げられた土星探査機「カッシーニ」が土星周回中の2007年2月3日に太陽風が土星の磁気圏に衝突することで生じた強い衝撃波を観測。これにより、太陽系における観測史上最大級の高いエネルギーを持つ電子(相対論的電子)が、強い衝撃波にともなって実証に基づいた形で確認されたという。

研究グループが解析を実施した結果、この時の磁場の状態は従来の観測などの知見から、電子加速を起こさない条件として考えられていた、流れの向きが磁力線とほぼ平行であることが判明したという。従来の知見と今回確認された成果が異なることについて研究グループは、従来、太陽系で観測されていた対象が弱い衝撃波であったことにより条件が異なることが、相違が生じた原因だと考えられると説明している。

なお、研究グループでは今回の成果について、相対論的電子加速のための条件が実証に基づいて把握され、従来考えられていたものとは逆であることが示されたことは、今後、超新星残骸における磁場の状態を考えていく植えて大きな意味を持つことになると説明している。

土星の磁気圏に生じた衝撃波を観測する土星探査機「カッシーニ」の想像図 (c)ESA - C. Carreau