パナソニックは2月14日、ベルギーimecと共同で数μlの血液からSingle Nucleotide Polymorphism(SNP:一塩基多型)などの遺伝子情報の検査を、前処理工程も含め、全自動で行なえる小型の遺伝子検査チップを開発したことを発表した。同チップは、微量の血液からDNAを抽出・増幅し、目的のSNP判定を行う機能を一体化したもので、これにより、1時間で遺伝子検査を行うことが可能になると同社では説明している。
従来の全自動式遺伝子検査装置は、大型かつ高価なため臨床現場への導入は難しく、専門の検査機関などが保有し、そこで解析を行うという形が取られていたこともあり、判定結果のフィードバックに時間がかかるといった課題があった。
今回の研究はこうした課題を解決することを目的に進められたもので、主に3つの要素技術を開発することで実現されたという。
1つ目は「導電性ポリマーアクチュエータを用いた超小型高圧ポンプ」の開発。シリコン基板上にポリマー薄膜を積層し、積層方向に大きく伸縮するポリマーアクチュエータを作ることで、ダイヤフラム(隔壁)を移動させて送液を行うダイアフラムポンプを実現。同アクチュエータは1.5Vで動作しながらも最大300気圧を超える圧力を発生させることが可能であり、DNAを選別する高精度フィルターへの液注入を含むマイクロ流路中での溶液移動の容易化ができるようになったという。
2つ目は「高速PCR技術」の確立。遺伝子診断のためには、DNA上でSNPを含む領域を切り出し、一定の量まで増やす必要がある。一般的に遺伝子の特定の領域を取り出して増やす「Polymerase Chain Reaction(PCR)」という手法を用いてDNAの増幅が行われるが、従来法ではDNAの増幅に2時間程度の時間がかかっていた。今回の研究では、熱伝導性の良いシリコン基板を用い、周囲からの熱分離を最適化し、昇降温の温度追従性を高めつつ、少ない液量でPCR反応が起こる構成を採用することで、DNAの増幅にかかる時間を約15分以下に短縮することに成功したという。
そして3つ目は「高精度、高感度な電気化学式センサ」の開発。従来、電気的にSNPを識別するには、あらかじめ識別用の人工DNAを電極上に固定させた、高価かつ特殊な電極が必要であったが、同技術の場合、識別用の人工DNAを電極に固定させることなく、約0.5μlの薬液中に溶解させた状態で、電気的にSNPの識別を可能としたという。
これらの技術を約9cm2のチップ上に搭載することで数μlの血液をそこにセットするだけで前処理工程も含めて1時間で検査をすることが可能なシステムが実現されることとなった。
なお同社では、同検査チップを活用することで、短時間でSNPを判定できるようになり、一般病院などの臨床現場で個人(患者)の体質を医師がその場で結果を見て、それぞれに合わせた医薬品処方や治療法などを選ぶテーラーメイド医療の普及が進むことが期待されるとコメントしている。