ETロボコン実行委員会は2月13日、2013年大会の開催概要に関する「ETロボコン2013開催・記者発表会」を都内にて実施(画像1)。新部門が設けられることが発表され、「次の10年」を見越した大きな変革がいよいよ具体的になってきた形だ。会見で明らかになった情報をお届けする。

画像1。毎年記者発表会が行われている、東京・南青山の福井県のアンテナショップ・ふくい南青山291。座っているのは福井のキャラクターの恐竜博士

画像2。ETロボコン実行委院長 本部実行委員長の星光行氏。5年後、15年後に活躍する「人財(=人材(技術者)+発想力+商品企画力)」をETロボコンで育てたいとした

画像3。実行委員会本部 運営委員長の小林靖英氏。会見では2013年の全体像などを語った

画像4。実行委員会 本部技術委員の太田寛氏。2013年の競技内容を解説

画像5。実行委員会 本部審査委員長の渡辺博之氏。2013年も含めたモデル審査についての説明を担当した

画像6。ゲストの独立行政法人情報処理推進機構(IPA) ソフトウェア・エンジニアリング・センター所長の松本隆明氏。ETロボコンに対するIPAの期待を述べた

ETロボコンについて簡単に説明すると、組込みシステム開発分野における、分析・設計モデリングと、若手および初級エンジニア向けにもの作りの楽しさを経験する教育機会を提供することを目的とした、組込みソフトウェアモデリング+ロボット制御コンペティションである(画像7・8)。

画像7。ETロボコン2012のチャンピオンシップ大会の様子

画像8。ハードウェアはワンメイクのため、ソフトウェアが重視される。その設計図の優劣も競われる

2002年に前身の「UMLロボコン」として参加チーム数20チーム、参加人数100人からスタートし、05年からETロボコンに名称を改称し、2013年で12年目となる。ちなみに2012年は全国11の地区大会(予選大会)が開催されて337チーム・約1900名が参加した(画像9)。

画像9。2002年から2012年までの参加チーム数と参加人数のグラフ。今のところチーム数としては2009年の354が最高で、ここ数年は横ばい

なお2012年の大会については、東京地区大会(記事はコチラ)と、各地区の上位入賞者が激突するチャンピオンシップ大会(記事はコチラ)をリポート済みなので、そちらをご覧いただきたい。

またETロボコンの2012年までの競技内容は、全チームがレゴ・マインドストームNXTの同一パーツを利用して組み立てた倒立2輪振子型のロボット(=走行体)を用いて、コース(基本ライントレース)の走行タイムとソフトウェアのモデリングの完成度を競うというものだ。ハードウェアはワンメイクの競技であり、ソフトウェアの独自性や優秀性などが重視されるのである(画像10)。

競技部門とモデル部門の両方の得点を調和平均(足して2で割る「相加平均」ではなく、両部門共に成績が必要なバランスで求める方式)で総合順位を決定するという、世界でもあまり類のない競技だ(画像11)。

画像10。走行体。基本、倒立2輪振子型で、平行2輪で走るが、ここ1~2年は尻尾を下ろして3点確保した安定した状態で高速走行するチームが多い

画像11。総合順位の得点は、競技部門の走行タイムとモデル審査の評価の得点から調和平均で算出。左のグラフは縦軸が競技部門、横軸がモデル部門の点数で、右上に一番近いチームが優勝となる

ここ数年はその競技内容やレギュレーションなどが大きく変わることはなかったが、冒頭で述べたように、13年度は大きく変更されることとなった。従来の競技内容も「デベロッパー部門」として、若手・初級エンジニア向けの部門として継続する一方で、中級向けの「アーキテクト部門」が新設される形となったのだ。

アーキテクト部門とは、「システムを企画提案し、実際に動かしてみせる」というもので、これからのアーキテクトの育成を目的とし、アーキテクチャ設計力の向上、問題定義力の向上に主眼が置かれる。対象は、「アーキテクト候補者」ということで、学生の場合は高度IT人材育成カリキュラム受講生なども含む。

5年後、10年後、15年後というこれからの次代に、アーキテクチャ、製品、サービス、さらにはビジネスを産み出せるエンジニアを育成していくというものだ。

現在のところ、すべての内容が決まっているわけではないが(申し込みのスタートする予定の3月4日までには決定される)、例えていうなら、デベロッパー部門がシステムの早さと確実性を見せる「スピードスケート」だとしたら、アーキテクト部門はシステムの良さを魅せる「フィギュアスケート」のようなものだという。要は、クリエイティブさが求められるというわけだ。

あくまでも参考として、ETロボコン本部技術委員の太田寛氏の例を挙げると、多数の走行体を同時に用いたり、Android OSなどで動作しているほかの機器と連携させたりするのもありだという。

さらには、参加者が自分たちで、ここ数年ETロボコンのボーナスステージに設けられてきたシーソーや階段などの難所よりもさらに難しいものを置いて、それをクリアするといった技術力の高さを披露してもいい。テーマは与えられることになるが、それをどう実現するか、どのようにパフォーマンスするかといったことは、すべて参加者が考えて創り出していくのである。

とにかく、「何をしなさい」「これこれをクリアしなさい」といった課題があらかじめ与えられる形ではなく、「火を使ってはダメ」といった禁止事項だけが設けられる形になり、それに抵触しなければ後は何をしても自由、ということだ。

アーキテクト部門にもモデル審査は用意されており、「作品の魅力とその設計・製造の妥当性が問われる」という。デベロッパー部門のようにA3用紙5枚+コンセプトシート1枚という枚数制限もないし、記述方式も参加者に任せる「自由」。ただし、審査時間制約などを検討中とした。

審査基準に関してもまだ検討中だが、コンセプトシートに関しては「製品カタログ」のイメージだとしている。内容がテーマに沿っているかどうかも評価される方向だ。

そしてモデルそのものに関しては、「製品の開発企画書」+「設計図」のイメージとする。課題設定から課題解決までの一連の流れを記載し、特に開発企画書に該当する課題設定(要求モデルや機能モデル)を重視するとした。

さらに具体的な方法は検討中だが、モデル審査に加えて、大会当日の会場での「サプライズ」や「感動」も評価の対象となるとしている。会場に有識者を招いて審査を行い、「新規性」、「セオリーの活用」、「モデル表現」、「プレゼン表現」などを審査することや、会場見学者の投票なども検討中だ。

具体的にどのような形でアーキテクト部門が行われるかというと、2012年のコースレイアウトでいうところのボーナスステージと呼ばれる後半部分が舞台となる。今回の記者会見では、そこにレッドカーペットを被せるという例を紹介していた(画像12)。前半のベーシックステージはデベロッパー部門同様にまずはゴールまで走り、そして後半でオリジナルパフォーマンスを披露する、という形だ。

なお、万が一ベーシックステージでコースアウトや転倒してしまったとしても、何らかのペナルティ(タイムが加算されてしまうなど)は加えられる予定だが、その場から再スタートでき、後半のパフォーマンスそのものを披露できるようにするとしている(せっかくのパフォーマンスを披露できないのでは意味がないため)。

画像12。左は2012年のコースレイアウト。同コースを例にすると、中央下のピンクのベーシックステージのゴールから先がレッドカーペットを被せ、アーキテクト部門のメインの舞台となる

アーキテクト部門が新設された理由だが、それはETロボコンが10年を超え、技術を持つ若手なども出てきたことを踏まえ、5年先、10年先、そして15年先、世界に通用するエンジニアを育てていくためにはどうしたら良いかを考えた結果だという。日本は技術力があるのにクリエイティブさが不足しているため、なかなか新しいビジネスを創出することができないことが、現代のもの作りにおける課題の1つとされていることが、こうした取り組みの背景にあるという。

よく、なぜ日本はかつてウォークマンのような世界中で利用される製品を創り出せたのに、ネクスト・ウォークマンとしてiPodのような製品を含めた「サービス」を創出できなかったのかということが話題に上がる。その理由の1つとして、日本人(エンジニア)は課題を与えると解決するのは得意だが、受託体質となってしまっているところがあるとする。

そこで、製品単体ではなく、それを含めたアーキテクチャ、プロダクト、サービス、さらにはビジネスを産み出せるエンジニアを育成する場にしようとして考え出されたのが、日本人が「不得意」とされる自由度の高い創造性を求められる形のアーキテクト部門なのである。もの作りを含みつつもそれよりももっと大きい「こと作り」を担えるエンジニアの育成が狙いというわけである。

一方、従来の路線を引き継ぐ形となるデベロッパー部門も、若干ながら変更が加えられることになった。というのも、わずかずつではあっても年々難所のレベルが上がってきており(画像13)、長年参加しているチームに有利で、新規に参加するチームにとっては敷居が高くなってしまっているということを是正するのが狙いだ。具体的なコースレイアウトなどは検討中だが、まずベーシックステージが「少々変更」となる。ボーナスステージも難易度を下げる方向だ。

画像13。難所の1つ、シーソー。十分難しいのだが、階段など他の難所の方が難しいという声もある

モデル審査に関しては、本来あるべき「モデル=設計図」への回帰を図るとした。イメージとしては、宝島を目指すための地図だという。モデルに関するここ数年の課題としては、まず年々新たな課題を追加したことで初参加チームには理解・対応が困難であるということがある。審査基準の複雑化・肥大化を招いてしまっているのだ。

さらに、「プレゼンテーションへの過度な傾倒」が挙げられるという。モデルの品質自体は年を追うごとに高度・濃密化しているが、高度な内容の理解性を挙げるために、読みやすさ・見栄えの工夫といった労力が増大してしまっている。その結果として、モデル=設計図という本来の役割よりも、「モデル=魅せるためのドキュメント」という側面への傾倒が顕著となってしまっているというのだ。

よって、そうした見栄えのする美しいモデルがこれまでは評価される傾向にあったが、2013年からは実際の開発で使われたであろう手垢まみれのモデルを評価するとしている(画像14)。

画像14。2012年のモデル部門でエクセレントモデルを獲得した「みらいまーず」のモデル。競技部門では速度アップのために掛けに出たそうで、それが裏目に出て、総合で上位に進出できず

審査基準は簡素化する方向で大きく見直すとし、ソフトウェアとして「どんな機能があり、それらをどのように実現しているのか」が明確に記述されていることを重視するとした。

さらに具体的にいうと、構造や振る舞いがよく書けていても、機能の実現性がきちんと読み取れないモデルは高評価しないとし、機能から構造・振る舞いへの追跡可能性(トレーサビリティ)を今まで以上に重視するとしている。

なお、走行審査は1位のみを表彰し、モデル審査はABCランクで発表する形だ(従来のエクセレント、ゴールド、シルバーが踏襲されるかも知れないし、松・竹・梅などほかのものも検討中とした)。総合評価に関しては、これまで通りの上位3チームを表彰する形だ。

続いては、ETロボコンの参加地区の原則やスケジュールなどについて。参加地区の原則と各地区の最大参加チーム数は以下の通りだ(地区名の後ろのカッコ内の数字がその地区の最大チーム数で、日付とその後ろの施設名は地区大会の実施日と会場)。

なお、基本は参加する企業や学校がある都道府県が所属する地区大会に参加できる形だが、その地区大会が満席となってしまった場合、他の地区に空きがあればそこから参加することが可能である。なお、参加申し込みは先着順。

  • 北海道(25):北海道 10/13(日)公立はこだて未来大学
  • 東北(40):青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島 9/23(月・祝)岩手県民情報交流センター(アイーナ)7階アイーナホール
  • 北関東(20):新潟、群馬、埼玉、栃木 10/13(日)アオーレ長岡市民交流ホールB/C ※日程・会場共に予定
  • 東京(90):茨城、東京、千葉、山梨、長野 9/21(土)・22(日) 早稲田大学西早稲田キャンパス
  • 南関東(50):神奈川 9/21(土)・22(日) 神奈川工科大学K-1号館 メディアホール
  • 東海(50):静岡、愛知、三重、岐阜 9/21(土) デンソー本社5号館・22(日)愛知工業大学本山キャンパス2F
  • 北陸(20):富山、石川、福井 日程・会場共に調整中
  • 関西(50):滋賀、京都、奈良、大阪、和歌山、兵庫 9月開催予定 会場未定
  • 中四国(60):岡山、広島、鳥取、島根、山口、香川、徳島、愛媛、高知 9/21 福山大学 宮地茂記念館 9階 プレゼンテーションルーム ※日程・会場共に予定
  • 九州(60):福岡、佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿児島 9/14(土)・15(日)九州産業大学1号館 7階 大会議室
  • 沖縄(20):沖縄 9/28(土)沖縄産業支援センターホール

そして第12回チャンピオンシップ大会は、組込み総合技術展ET2013との併催という形となり、11月20日(水)にパシフィコ横浜で競技会、翌21日(木)にワークショップが開催される予定だ。選抜出場数は各地区合計で40が予定されている。

参加申込期間は3月4日(月)から4月8日(月)17時までで、ETロボコン2013公式サイトの大会参加申し込みページより登録を行える。参加費用は、10種類あり、高校生、高専本科、専門学校2年生までの学科、短大2年生までの学科は2万1000円。個人、高専専攻科、専門学校3年生以上の学科、短大3年生以上の学科、大学・大学院は4万2000円。企業は10万5000円。そのほか、技術教育追加費は、企業が1万500円で、そのほかは5250円となっている。

また、高校から大学(大学院)までの学生のみを対象とした、仮登録制度も設定。締め切りが4月8日という、新入学の時期のため、教育者再度で仮に申し込んでおき、生徒が集まらないといった状況だった場合は4月3日(水)から5月8日(水)までの間に参加をキャンセルすることが可能だ(申し込みではないので注意)。

このほか、一部は調整中だが、3月上旬の土日から早くも各地で実施説明会が開催される予定だ。北海道や北関東、東海などは同一地区でも日程を分けて複数の地域で開催するところもあるので、公式サイトをご確認いただきたい。さらに、各地区で5月中旬から6月下旬までに技術教育が2回、7月中旬から9月末ぐらいまでに試走会が2回など、地区大会に向けたイベントが設定されている。

なお、1つのチームでアーキテクトとデベロッパーの両部門に参加することはできないため、同一の企業や学校から両部門に参加したい場合は、2チームを出すのがルールとなる。

よって、デベロッパーは入社1~2年目の若手チーム、アーキテクトはそれよりも経験の豊富な中堅によるチームという形で2チームを送り出す形になるだろうか(もちろん、1~2年目の若手チームがアーキテクトに参加してもよいし、中堅エンジニアで固められたチームがデベロッパーで優勝を狙うのもレギュレーション上は禁止されていない)。

ともかく、今年は大きな変革の年となることが発表されたETロボコン。アーキテクト部門は未知数のため、初年度の今年は率先して参加するチームは少ないと思われ、実行委員会サイドでは、2012年の総合、各部門の上位チームに声を掛けることも考えているとしている。