NTTは2月12日、シルクや合成繊維の表面に導電性高分子の1つであるPEDOT-PSSをコーティングすることで素肌に優しい導電性複合素材を作製することに成功したと発表した。
従来、心拍・心電図計測で用いられる医療用電極は、電解質ペーストを用いて皮膚に付ける形のため、医療現場で横になって測定する場合などは良いが、日常生活で連続使用するのは難しかった。近年、銀コーティングされた導電性繊維が心拍計測に利用されるようになってきたが、電解質ペーストを用いないためノイズが大きく、医療用途としての心電図計測は困難とされていた。
一方、親水性・生体適合性に優れるという点でポリチオフェン系導電性ポリマー(ポリエチレンジオキシチオフェン-ポリスチレンスルホン酸:PEDOT-PSS)を生体電極として応用することが期待されてきたが、湿潤な環境にもろく、耐水性・加工性にも課題があるなど適用が難しかった。NTTでも2004年からPEDOT-PSSを金属製の多点電極(MEA)の表面修飾として用いた実験を進め、シルクや合成繊維にPEDOT-PSSをコーティングした素材の作製の開発を行っている。
今回の研究では、シルクおよび合成繊維の表面をPEDOT-PSSでコーティングし固定することで、PEDOT-PSSの持つ導電性・柔軟性・生体適合性を損なうことなく、強度に優れ、耐水性・加工性の課題を解決した素材を作製することに成功したという。
実験として、同素材を生体電極として動物に適用したところ、水分を吸収する親水性および従来の医療用電極に近い安定した心電図計測が可能なことを確認したという。
また、PEDOT-PSSをコーティングした布を使用して人が身に着けるだけで心拍や心電図といった生体信号の計測を可能とするウエアラブル電極を構築。柔軟かつ高い通気性という布の特徴を生かすことで、装着者に負担をかけず長期間の計測・モニタリングが可能になったとする。
具体的には、健常者10名を対象に安全性確認試験を実施。その結果、接触性皮膚炎(かぶれ)などが発生することなく24時間以上の連続使用に対して安定な心拍計測・心電図計測ができることが確認されたという。
なお研究グループでは今後、100人規模を対象とした装着試験を実施し、安全性や有効性のさらなる検証を行う計画だとしている。また、大学の医学部などと連携し、患者の負担が少ない心電図の長期測定およびモニタリング、基礎研究や在宅医療・遠隔医療等の医療分野への応用を検討する予定とするほか、低負担の医学検査や治療サポート技術、健康増進に向けたスポーツウエアの適用などの検討を行なっていく方針だとしている。