ユーザーが育てる「東北ずん子」
SSS合同会社が企画した、東北応援キャラクター「東北ずん子」。ずんだ餅をモチーフにしたというキャラクターは、ユーザーの支援に支えられて成長を続けている。
東北ずん子が発表されたのは2011年10月。東北地方の応援をひとつの目標に掲げ、個人の二次創作に制限を設けず、また、東北地方に本拠を置く企業は営利利用であっても無償で可能だ。
「ずん子」という、あまりに強烈な響きで登場したキャラクターだが、ご当地キャラやゆるキャラとは少し違ったカタチで成長を続けている。行政や観光地・観光施設などのPR目的で生まれたキャラとは異なり、東北ずん子は社員3人の企業による、東日本大震災の被災地を応援したいとの思いから生まれたものだ。
江戸村ににこさんが描いたキャラクターは、その名前の強烈さと相まって話題となるが、それ以上の広がりを生み出すバックボーンは当初はなかった。そのような中でSSSがとった行動は、ソーシャルメディアの活用やユーザーの応援による拡散だ。
まず2011年にiPhoneアプリの制作支援として、microbank(現在はサービス終了)で30万円の支援を募る。これは、簡単なグッズのリターンはあるもののほぼ純粋な寄付であったが、口コミで徐々に資金が集まり、期間内に目標金額を達成。アプリは2012年11月に公開された。
さらにSSSは、東北ずん子をキャラクターとしたVOICEROID化に取り組む。これは投資型のファンドとして、1口2万円の出資を募るものだ。「みんなのファンド」で公開された同ファンドは、約30日間をかけて目標金額の500万円(250口)を達成。
東北出身で、アニメ「氷菓」の千反田える役や「けいおん!」の田井中律役などで知られる声優・佐藤聡美さんがボイスサンプルを担当したこともあり、このVOICEROID化は話題となって、2012年9月にAHSから「VOICEROID + 東北ずん子」として製品発売された。
販売数に応じてお金が戻ってくる投資型であるため、純粋に"応援"とは言えない面もあるかもしれないが、これもユーザーの力によって実現したプロジェクトと言っていいだろう。
ちなみに、1口を投資したある30代男性は「佐藤聡美さんに(自分の)名前を実際に読み上げてもらうという特典もあったし、そもそも儲けようと思ったわけではないです。投資型であったというだけで、どちらかというとクラウドファンディング的なノリでした」と語る。
成長するクラウドファンディング市場
クラウドファンディングとは、最近のトレンドとしては「インターネットを通じて、共感したアイデアや応援したいプロジェクトに、不特定多数の人から資金提供を募ること」とまとめられるだろう。群衆(crowd)と資金調達(funding)からの造語で、広く捉えれば、街頭の募金や寄付といった活動も、この範疇に含まれる。
これまでにも存在した募金や寄付のあり方を変えたのが、インターネットとソーシャルメディアの広がりだ。まさに、東北ずん子のようなユーザーが支援する図式が、有名な人や企業ではなくてもアイデアを実現できる時代として表れてきている。必要なのは実際に動き出す力、そして応援してもらえる魅力的なアイデアやプロダクトだ。
元WIREDの編集長であるクリス・アンダーソン氏は近著「MAKERS」で、個人が欲しいプロダクトを自ら作る時代が来ると述べている。デジタルツールや3Dプリンタなどの普及だけはでなく、何かしらの「アイデア」をプロジェクトとして実現するハードル(特に資金的な)は低くなってきている。
例えば、前述のAHS「VOICEROID + 東北ずん子」の製品化。佐藤聡美さんのような有名な声優を起用して、このような製品を……と考えたら、これまでなら相応の資金や人材が必要だったことだろう。だが、このプロジェクトはSSS合同会社の3人が企画し、その東北ずん子をユーザーが応援することで実現したものだ。
余談だが、東北ずん子は「ふしぎの海のナディア」のプロデューサーでもある村濱章司さんが発案したもの。村濱さんの奥様が岩手出身で、それをきっかけに「ずんだ餅」を知ったのだという。
何かを始めるのに、敷居が下がってきた一方で、今も昔も、肝である"魅力的なアイデア"は簡単には得られない。また、プロジェクトが成功し、資金が集まったとしても、その後うまくいくかどうかは未知数だ。
このようなクラウドファンディングの仕組みを提供するのが、KickstarterなどのWebサービスサイト。国内ではCAMPFIREやREDYFOR?といったサービスが知られている。
2012年の支援流通額が1億円に迫るCAMPFIREでは、米国と比べるとまだまだその規模は小さいが、年明け早々に、キングコング西野亮廣さんの原画展開催が400万円を超える支援を集めたり、安野モヨコさんの「バッファロー5人娘」オールカラー豪華本制作プロジェクトが目標を達成するなど、サービスの成長が感じられるようになってきている。
東北ずん子も、同時期にCAMPFIREで3つ目のクラウドファンディングプロジェクトを開始した。これは、MMDモデルデータの制作費を募るというのも。MMDモデルデータは、樋口優さんが制作したMikuMikuDanceという3DCGソフトウェアで利用できる3Dデータ。プロジェクトはこのデータの制作と、データを無料公開することでより多くの人に楽しんでもらうことが目的だ。
目標資金は25万円だったが、支援特典などの効果もありプロジェクト開始からわずか4日で目標を達成。2月8日時点では約32万円が集まり、すでにデータの制作に着手しているという。
米国ではひとつのプロジェクトが数億円を集めた例もあるが、まだまだ成長途上の日本においては稀な例とも言えるだろう。
東北ずん子は、今後もドラマCDの作成やさらにはアニメ化も検討しているという。果たして実現するかどうかは未知数だが、今後も東北ずん子の成長はユーザーの応援や支援とともに続いていくだろう。
ちなみに、「東北ずん子」の夢である「秋葉原にずんだカフェを開くこと」がいつ実現するのか、SSSの担当者に尋ねてみたところ「アニメ化のタイミングで是非ずん子ちゃんに秋葉原に店を出してもらいたい」とのことだ。