京都大学(京大)は2月12日、持続型・環境調和型のメタルフリー触媒である有機分子触媒を用いた有機合成により、従来、合成が困難であった「光学活性四置換アレン」と呼ばれる分子の高効率的合成に成功したことを発表した。

同成果は同大 丸岡啓二 理学研究科教授、橋本卓也 同助教らによるもので、詳細は英国化学誌「Nature Chemistry」に掲載された。

近年、医薬品分野では効果を高めるために光学異性体(鏡像異性体)といわれる、同一の構造ながら鏡面の関係を有する分子が用いられるようになってきた。こうした医薬品では、対になる二分子の一方の光学活性分子が有効成分となり、他方の光学活性分子が実際の薬に混入することは許されない。こうした片方の光学活性分子だけを選択的に合成する技術が有機化学を活用した「触媒的不斉合成法」である。

今回の研究において研究グループは、有機分子触媒の力を利用し、これまで合成が難しい分子とされてきた光学活性四置換アレンを触媒的不斉合成することに挑んだ。これまで四置換アレンの触媒的不斉合成が実現されてこなかった理由としては、それら分子を直接合成できる反応がそもそも存在しなかったことにある。

そこで今回は、まず新たな反応の開発が行われた。この反応は、触媒作用を受ける反応物(基質)は有機分子触媒Q+X-の作用により反応性に富んだ反応活性種を生じ、もう1つの違う基質と衝突し結合を作ることで四置換アレンを生じるというもの。

新たに開発された反応式

触媒の不斉情報が基質に伝播しながら反応が起こることで、生成物は光学活性体として得ることができるようになるとのことで、その触媒として、独自に開発した一切金属を含まず、水素、炭素、窒素、酸素およびハロゲンといった非金属元素のみで構成される有機分子触媒を基に、2つの触媒が反応に併せてデザインされた。

2種類の触媒を新たにデザインした

この結果、この2種類の有機分子触媒をそれぞれ、2つの基質のalleno-Mannich型反応と3つ目の基質を相手とするアルキル化反応に適用することで、30種類以上のさまざまな光学活性四置換アレンを実際に合成することに成功したという。

1分子の触媒から最大50分子の四置換アレンがほぼ単一の光学活性体として合成できるという

なお、研究グループでは、今回の成果を受けて、入手困難であった光学活性四置換アレンを、持続性、環境調和性に配慮しながら供給することが可能となり、新たな低分子医薬品の骨格に組み入れたり、中間体として新しい医薬品合成ルートの開拓に用いたりすることが可能になると説明しており、今後は、さらなる触媒の効率化を図ることで、より少ない触媒量で量的供給が可能になる合成法の実現に向けた研究を進めていくとするほか、今回の手法を応用して多種多様な光学活性四置換アレンの合成法の確立を目指すとしている。

光学活性四置換アレンの模式図。左右の図は中心線を軸に鏡面対称で、この片方のみを触媒的不斉合成で選択的に作る