「ビッグデータは、この1、2年、IT業界でもっとも注目されているキーワードだといってもいいだろう。実際、大手IT企業の多くが注力分野に挙げており、IDC Japanは昨年の10月、国内ビッグデータテクノロジー/サービス市場は、2011年~2016年平均成長率39.9%で拡大し、2016年には765億円に達するとの予測を発表した。
しかし、ビッグデータは大きく注目されながらも、その実態がなかなかつかめないという人も多いだろう。そんな人向けに出版されたのが、『図解 ビッグデータ早わかり』 (中経出版:1,500円+税) だ。
著者の大河原克行氏は、元BCNの編集長で、現在はフリーのジャーナリスト。日々、記者発表や事例取材、インタビューなどを行い、小誌をはじめ、大手ITニュースサイトのほとんどに記事を提供する著名なライターだ。
この本では、ビッグデータの正体、注目されている理由や背景のほか、先進的な利用事例、大手IT企業の戦略などがわかりやすく記述されている。
ビッグデータで比較的有名なのは、SNSの活用だろう。SNSでつぶやかれる商品に対する不満などを収集し、次の商品開発に役立るといった使い方だ。大河原氏は、SNSから収集されるデータをこの本で中で「大きな宝の山」と表現している。そして、「企業におけるソーシャルメディア重視は、確実にこれからの常識になる」と語っている。
しかし、この本を読むと、ビッグデータの活用が、SNSだけに留まらず、今後、より広い範囲に拡大されていくことを予感させる。
同氏は、この本の中でビッグデータの価値を「これまで見えなかったものが、見えるようになる」点だと指摘。各種センサーがあらゆる機器に搭載されるスマート家電やスマートシティの時代がやってくれば、これまで収集できなかった情報も収集可能になり、「見える可」することが可能になるというのだ。
たとえば、これまでのようにPOSデータを使って、いつ、どんな商品が、どれだけ売れたのかといった売れ筋商品を分析することだけでなく、「『棚の前で手に取った商品を戻した』『棚の前で、どれくらいの時間悩んでから商品を購入したのか』といったことまでを収集できるようになる」(本書からの引用)のだ。NECの開発した高感度振動センサーを利用すれば、建物の劣化診断や水道管の漏水検知、人体の血管の流れさえも把握できるようになるという。
さらに、気象予測、渋滞予測、犯罪予防、農業支援やウイルスワクチンの開発にもビッグデータの利用が広がっているといい、本書では、これら分野での活用事例が数多く紹介されている。
この本を読めば、ビッグデータがIT業界に留まらず、数多くの産業を巻き込んだ大きな社会変革のきっかけになることを理解できるだろう。