北海道大学(北大)は2月7日、イカが水面から飛び出して着水するまでの一連の行動の連続撮影に成功し、その様子を解析した結果、単なる水面から飛び出すのではなく、ジェット推進による加速と、腕とヒレを広げることにより揚力を発生させて、それをコントロールして着水する、発達した飛行行動を行っていることを明らかにしたと発表した。
同成果は、同大大学院水産科学院・修士課程2年の村松康太氏、同大北方生物圏フィールド科学センターの山本潤 助教、同大附属練習船おしょろ丸の阿部拓三 次席二等航海士、国際基督教大学大学院アーツ・サイエンス研究科の関口圭子 研究員、北大附属練習船おしょろ丸の星直樹 首席二等航海士、同大大学院水産科学研究院の桜井泰憲 教授らによるもので、独Springerの科学雑誌「Marine Biology」に掲載された。
イカは、外套膜に吸い込んだ水を漏斗から噴出して得る推進力(ジェット推進)で遊泳しており、捕食者などの接近を感じた際には、漏斗から水を勢いよく何度も噴出することで移動速度を上げ、その場からの逃避を図ることなどが知られている。
外洋性イカの中には筋肉が発達した種類もおり、勢いよく水を噴射することで水面から飛び出すことが知られている。このような行動は世界各地で目撃されてきたが、人間には予測が難しく、意図的に見ることができないため断片的もしくは逸話的な情報という形でしか存在せず、単なる水面から飛び出しているだけなのか、それとも本当に「飛んでいる」のかは不明のままであった。
今回のイカの水面から飛び出し、着水するまでの行動の撮影は、同大水産学部附属練習船であるおしょろ丸の北西太平洋実習航海中に実施していた目視調査中に行われたもの(観察日は現地時間の2011年7月25日14時25分、位置35°34.0' N,146°19.3' E、東京の東方約600km)で、船が12.8 ノット(約22.8km/h)で東方に航行している際に、船首波で驚いたと考えられる約100個体のイカの群れが2回、水面から飛び出すことが確認されたという。
観察されたイカは、アカイカ科(スルメイカの仲間)の若体(成体になる前の小型の個体)で、アカイカまたはトビイカとみられるという。大きさは全長(ヒレの先から腕の先まで)約203~225mm(外套長122~135mm)で、撮影された連続写真を解析した結果、イカの「飛ぶ」行動は4つの段階に分類できることが判明した。
1つ目は「飛び出し」で、水を勢いよく吐き出し水面から飛び出す段階。この段階では、ヒレを外套膜に巻き付け腕もたたみ水の抵抗を小さくする姿勢を取っており、飛び出す前に高速で遊泳し水面へ接近してきたことを示唆するものだという。
2つ目は「噴射」で、水を漏斗から噴射し続け空中でも加速し、さらに揚力を発生させるためにヒレと腕を広げるという行動。この際、腕の間にある保護膜を広げることで、腕とともに翼のような形を形成。空中の移動速度は8.8~11.2m/sに達するものと考えられるとする。
3つ目は「滑空」で、水の噴射を終え、腕とヒレを広げた状態を維持したまま滑空を開始する行動。揚力はヒレや腕と保護膜で作った翼で発生させており、進行方向に向かってやや持ち上がった姿勢(ピッチ・アップ)を取ることで、バランスを取っているほか、外套膜は緊張状態を保ち、体の前後(ヒレと腕)にかかる揚力に耐え空中姿勢を安定させていることが判明。
そして4つ目が「着水」で、ヒレを外套膜に巻き付け腕をたたみ、進行方向に対してやや下がった姿勢(ピッチ・ダウン)を取ることで、着水時の衝撃を小さくさせていることが分かった。
今回の結果は、複雑な行動をとることでイカが単に"水面から飛び出している"のではなく、高度に発達した飛行行動を持つことを明らかにするものと研究グループは説明するほか、イカの飛行は、逃避行動として頻繁に起きている可能性が高く、多くのイカが海鳥に空中で捕食されていることを示唆するものだとも説明しており、海洋生態系の食物連鎖の理解につながるのではないかとの期待を示している。