北海道大学(北大)は2月6日、腫瘍の酸素濃度(低酸素状態)が低いほど放射線治療の後にがんの再発が起きやすいという近年の研究報告を受けて、低酸素状態の評価に用いられる「FMISO(フルオロミソニダゾール)-PET(ポジトロン断層法)」を、頭頸部がん患者を対象に2日の間隔を空けて2回実施し、低酸素状態の変化比較を行ったところ、2回の検査結果に大きな変化がなく、FMISO-PETは低酸素の再現性が高いことを証明したと発表した。

成果は、北大大学病院 核医学診療科の岡本祥三助教らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間1月15日付けで学術誌「The Journal of Nuclear Medicine」に掲載された。

がんに対してはさまざまな治療が行われるが、頭頸部がんの治療では放射線治療が中心となる。しかし効果が乏しく、治療後に再発してしまうこともあるため、そうした再発しやすいがんに対する研究が進められており、近年、腫瘍の酸素濃度が低いほど治療後に再発しやすいことが報告されるようになり、この結果から低酸素状態にあるがんに対して、再発なく治療できるように状態に応じた新たな放射線治療法の開発が必要とされるようになってきた。

しかし、低酸素状態は腫瘍内の細胞や血管の状態によって日々変化しており、治療前の検査で得た低酸素の状態が治療中に変化してしまう可能性などが考えられており、そうしたことが生じていた場合、治療前の検査で得た低酸素状態を元に、治療方針を立てるという行為そのもが難しくなることが考えられていた。

これまで海外で行われてきたFMISO-PET検査を用いた低酸素状態の変化を調べた研究では再現性が低く、治療中に低酸素状態が変化してしまうことが指摘されており、治療前の低酸素評価を治療に応用することは難しいとされていた。こうした報告を受ける形で今回、研究グループは、FMISO-PETにおける低酸素評価の有効性を証明することを目的に、検査方法の工夫などを行うことで、低酸素状態であるがんについての再現性を評価する研究を行ったという。

具体的には、頭頸部がんの患者11例を対象に、2日の間隔を空けて2回のFMISO-PETを実施。FMISOを静脈注射で投与し、従来の2~3時間より遅い4時間後に、感度を高めた最新のPET機器と、最新手法の活用により、高画質PET画像の撮像を実施。得られたPET画像から分析した低酸素の位置を2回のFMISO-PETで比較したほか、低酸素の程度と低酸素領域の体積を血液や筋肉との比で比較することにより、低酸素状態の評価についての再現性を統計学的手法を用いて比較した。

2回のFMISO-PET画像による分析の結果、低酸素の位置、低酸素の程度、低酸素領域の体積は、いずれも大きな違いがなく、FMISO-PETを用いた低酸素評価の再現性が高いことが証明されたほか、治療前の低酸素状態は治療中も大きく変化しないことが判明したことから治療前の検査を放射線治療に応用できることが示唆されたと研究グループでは説明する。

今回の成果から、再発を防げるような治療効果の高い新しい放射線治療法の開発が可能になったことから、研究グループでは今後、放射線治療に関して先進的な設備を揃えている北海道大学病院などと連携し、これらの技術と合わせた形で検査から治療までの一貫した流れを作り、低酸素を有するがんに対して個別的に治療することで、がん治療に貢献していきたいとコメントしている。