新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究テーマ「低消費電力メニーコア用アーキテクチャとコンパイラ技術」を担当する「SMYLE(Scalable ManY-core for Low-Energy computing)プロジェクト」の研究成果を発表する「第2回 メニーコアシンポジウム」が2013年1月30日に早稲田大学で開催された。このプロジェクトでは、九州大学、電気通信大学、立命館大学などが中心となる汎用メニーコアのSMYLErefと、トプスシステムズが担当するビデオマイニング用のSMYLEvideoの2つのメニーコアアーキテクチャの研究が行われている。

トプスシステムズは、「エネルギー効率の極めて高いマイクロプロセッサ」のハードウェアと基本ソフトェアを提供する研究開発型のベンチャーで、「TOPSTREAM(Task Oriented Parallel STREAM)」と名づけた革新的マルチコア・プロセッサ・アーキテクチャに基づくIPを開発、販売する会社である。「日本の新たな技術立国の形成を目指す」という企業理念のもとに新技術の研究、開発にチャレンジしており、その一環としてSMYLEプロジェクトに参加してSMYLEvideoを研究開発している。

メニーコアシンポジウムにおいて、同社の松本祐教 社長がSMYLEvideoのメニーコアアーキテクチャと性能について発表を行った。

ビデオマイニングでは、ビデオ入力から特徴抽出を行い、連続したフレームであるショットの境界を検出し、追跡対称である人や車、建物などを抽出する。そして、それらのデータを総合して注目するイベントを検出する。

ビデオマイニングシステムの概要(この記事のすべてのスライドはメニーコアシンポジウムでの松本氏の発表資料を撮影したもの)

SMYLEvideoの開発目標は、OpenCV(Computer Vision)がサポートできる柔軟性を持ち、リアルタイムのマイニング処理ができる1TOPS以上の処理性能を持ち、かつ、組み込み用であるので1.5W程度の消費電力でこれらを実現するというものである。

前のスライドのように、ビデオマイニング処理は、ビデオ入力に何らかの処理を行い、その出力を次の処理の入力とするという形態の処理であり、汎用のメニーコアプロセサで処理するとなると、処理の出力をメモリに書き出し、それを次の処理がメモリから読み出して処理するという流れになる。しかし、このようにすると、メモリアクセスの回数が増え、消費電力が増えてしまう。このため、SMYLEvideoでは、FIFOで処理ステージ間をつなぐKahn Process Network型の分散処理を採用している。

SMYLEvideoに適用した処理方式。処理間のFIFO結合、柔軟な並列処理とコアの最適化が鍵

ローカルメモリ上にソフトウェア的に作ったFIFOを経由したストリームデータの受け渡しに比べて、ハードウェアのFIFOを設けることによりローカルメモリへのアクセス回数は30%以上減少したという。

また、それぞれのタスクの負荷に応じてコアの配分を行い、処理のパイプライン化を行っている。そして、下の図のように、ストリーム入力とストリーム出力をカーネル処理と並行して実行できるアーキテクチャとなっている。

この考え方で設計されたSMYLEvideoの構成は次のようになっている。

SMYLEvideoでは、コアがFIFOで直列接続される形で結合されている

コアには64ビット処理のSVPと256ビット処理のQVPがあり、クラスタ0はQVP 4段の後にSVP 2段をつないだ構成、クラスタ1はSVP 2段の後にQVP 2段を接続する構成となっている。そして、さらに高い処理性能を必要とする場合は、多数のクラスタをネットワークで接続して拡張ができるアーキテクチャになっている。

このSMYLEvideoを使う画像処理用のSoCは、100MHzクロックで動作する2クラスタのSMYLEvideo部分が約700GOPS、266MHzクロックで動作する汎用コアと専用アクセラレータ部分が464GOPS、SIMD型マルチコア部分が138GOPSとなっており、合計では約1.3TOPSとなる。なお、今回の発表はSMYLEvideoメニーコアに関するものであり、汎用コアや専用アクセラレータの中身には言及されていない。

画像処理SoCを構成するSMYLEvideoとその他のモジュールの性能

SMYLEvideoは2クラスタ構成で、画像に特徴点の候補を検出するSIFT処理を毎秒15フレーム処理できる性能となっており、40nmプロセスで実装した場合、チップ面積は17mm2と小さく、消費電力も350mW以下と少ないという。

スマートフォンやタブレットの高機能化などには、応用分野に最適化したSMYLEvideoが最適であり、システムメーカーが必要とするIPを提供する形で事業化を行っていく計画である。また、同社は、 Cool Softという子会社を持っており、ハードIPの提供に加えて、ソフトウェアの提供も行える体制になっている。

SMYLEvideo IPの事業化の戦略