ヤン・マーテルのベストセラー小説「パイの物語」を原作とした3D映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』。本作は第85回アカデミー賞において主要11部門にノミネートされたことで話題となっているが、ノミネート部門を見てみると作品賞や監督賞に加えて、撮影賞、編集賞、美術賞、視覚効果賞など映像に関する評価も高いことがわかる。ここではCG技術や3D撮影技術に焦点を当てつつ、監督アン・リーや制作スタッフらが明かした制作の裏側を紹介する。
不可能を可能にしたCG技術
作品の主な舞台は太平洋を漂流する小さな救命ボート。さらに、そのボートには主人公である少年"パイ・パテル"とどう猛なベンガルトラが同乗するという、現実には再現がかなり難しいシチュエーションで物語が展開していく。つまり、CG技術を利用しないことには映像化がほぼ不可能なのである。
主人公を演じたスラージ・シャルマは、ほとんどのシーンにおいて"架空のトラ"を相手に演じ、実際のトラの映像とはポストプロダクションの過程でCG合成されたという。プロダクション・デザイナーを務めたデヴィッド・グロップマンは「このストーリーには不可能に思える瞬間がいくつもあるが、我々は観客に信じてもらえる形で見せなければならない。幻想的であると同時にリアルで正当な迫力が必要だった」と、当時の苦労を振り返っている。
しかし苦労の甲斐あってか、同氏は完成したシーンについて「全部デジタルでやったことだが本物に感じられる。トラがパイに接近して襲いかかるところは、ニセモノには見えない迫力だ。3D映画の動物は大抵光沢のある見かけになるものだが、『ライフ・オブ・パイ』の場合はそうじゃない」と語るなど、自信をうかがわせた。
映像に新たな次元を与える3D技術
一般的にはアクション映画などのビッグタイトルが3D映画となることが多いが、デヴィッド・グロップマンが語ったように本作でも3D映像で撮影されている。これについて、監督のアン・リーは「3Dを使えば、撮影にもう一つの次元をもたらし、距離に関する知覚を変えることができるかもしれないと考えていました」とその理由を明かし、「本作では思い切って信じて3Dに切り替えています。観客にも一緒についてきてほしいと思っています」とコメントしている。
また、『ベンジャミン・バトン』なども手掛ける撮影監督のクラウディオ・ミランダも「3Dで撮影するかどうかの決定では熱い議論を交わした」としている。しかし、この決断は正しかったようで、クラウディオは動物園や海など多くのシーンについて「3Dのおかげで、広い空間を感じられる」などと語っている。
これまでの3D映画と違い、"薄気味悪いほどの自然なリアリズム"を実現したという本作。観客はトラの息づかいを肌に感じ、パイの味わう「恐怖」と「寂しさ」を共有し、ともに旅をすることとなるのかもしれない。話題の映像技術を劇場にて体感してみてはいかがだろうか。