大阪大学(阪大)と米パデュー大学は1月29日、「レーザーおよび磁場核融合炉に関する極限重相状態の科学」に関する共同研究を本格的に始動させることを発表した。また、米国時間1月28日、同共同研究のキックオフ会議をパデュー大において米国国立科学財団(NSF)からの担当者も参加する形でワークショップ開催として実施したという。

今回の共同研究の日本側の代表は阪大大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻 高強度レーザー工学領域の羽原英明准教授で、米国側代表はパデュー大のAhmed Hassanein教授。日本学術振興会が国際共同研究教育パートナーシッププログラム(PIREプログラム)として採択した研究の1つ。PIREプログラムは学術研究活動のグローバルな展開に対応するために、海外の学術振興機関との連携のもと、日本の大学などの優れた研究者が海外の研究者と協力して行う共同研究を推進するための事業であり、かつ国際的研鑽機会の充実を通じた若手研究者および大学院生の育成を目的とした国際共同研究事業である。 今回の共同研究は日米双方の研究者が集い5年間(2012-2017)にわたって実施される計画で、日本側は日本学術振興会が、米国側はNSFがそれぞれ支援を行う形で実施される。また、米国側はロシア、アイルランド、ドイツの大学および研究機関との共同研究を含む形で研究を進めていくことから、極限状態における核エネルギーシステムと材料に関する教育・研究に関する一大国際共同研究教育パートナーシップが構成されることとなる。

核融合炉の内部の壁や宇宙船の外壁は、プラズマ状態に曝された極限状態となる。こうした材料の耐力向上は、設計上の重要要因となるため、今回の共同研究では、そうした極限状態をさまざまなレーザー装置を用いて研究を進めることで、材料システムとしての耐力向上の条件を確立することを目指そうというもの。これにより、レーザーの高機能性を十分に活用することができ、格段の進展を図ることが可能となるという。

炭素プラズマ同士の衝突をレーザー実験でモデル化したデータ像。炭素ターゲットからのプラズマを2つ、90度で衝突させると大量のカーボンナノチューブ(CNT)を含むエアロゾル生成が行われる(画像は阪大の実験データ)

この図のような2つのプラズマ流の衝突は、核融合炉壁に流れ込む高いエネルギー密度を持ったプラズマと、プラズマ化した壁表面材料(プラズマ機能層)の衝突として起こりうることが想定されている。

阪大では、この衝突によって壁に流れ込むプラズマの持つエネルギーが緩和され、壁の損傷を効率よく低減できる可能性について提案し、その原理実証に向けた実験的・理論的研究を実施してきており、近年の実験より、2つのプラズマ流の衝突によってプラズマの進行方向が曲げられ、衝突過程でエアロゾルが生成されること、ならびにエアロゾルの中にカーボンナノチューブ(CNT)が含まれていることを発見。この結果から、CNTや球状のエアロゾル形成によりプラズマの衝突効率が上昇し、固体壁にプラズマ流が到達する前に、そのエネルギーがプラズマ機能層によって吸収されることが示されたことから、これにより極限状態における固体の耐力向上の効率的な手法としてのプラズマ機能層の利用に期待がかかるようになってきたという。

なお、5年間の研究では、実験室規模のレーザーを用いることで生成されるプラズマの温度、密度などの特性評価からスタートし、最終的には、実際の核融合炉環境に近い極限環境を模擬することができると期待される大規模な高エネルギーレーザー生成プラズマを用いたて、エネルギー密度プラズマに曝される環境を構築し、プラズマ機能層の働きを調べ、そうした実験から得られた知見を含めた物理モデル、シミュレーション開発を進め、それらをもとに、核融合炉や宇宙船が曝される極限環境における材料損傷およびその防御のためのプラズマ機能層の働きを調べる環境を整え、材料耐力向上のための筋道を明らかとすることを目指すとしている。