パナソニックは2月4日、光の波の性質(光波)を用いて撮像素子に入射する光を色ごとに分離できる独自の「マイクロ分光素子」を考案・開発し、イメージセンサに適用することで、カラーフィルタを使用しない色配置を実現。これにより、カラーフィルタを使用する従来の方式と比べ、約2倍の高感度化を実現したことを発表した。

デジタルカメラを中心としたデジタル映像機器や、リアビューモニタなどの車載機器、オフィスや家屋でのセキュリティ用途、医療機器など、さまざまな分野で使用されているイメージセンサだが、従来はカラーフィルタを各画素に配置することでカラーによる撮影を実現している。中でも最も広く用いられるベイヤー配列構成は、赤、緑、青の各画素においてそれぞれ赤色、緑色、青色のみを透過するフィルタを配置することで、入射光の50~70%の光量が失われていると言われている。しかし、携帯機器に搭載されるイメージセンサは小型化とともに高解像度化が求められており、そうした小さくなる画素サイズと高感度化の両立が課題となっていた。

今回開発された技術は、

  1. 光波の振る舞いを高速、高精度で計算する独自の波動解析/光学設計技術
  2. 板状の高屈折率透明体を通過する光の位相を制御し、微細な領域で光を回折させて色分離するマイクロ分光素子を実現するデバイス化技術
  3. マイクロ分光素子で色分離した光を撮像素子上で組み合わせ、そこから得られる検出信号から高感度かつ高精細に色再現するレイアウト技術と独自アルゴリズム

の3つにより実現されたもの。

1つ目の波動解析/光学設計技術は、光を波として解析する手法としては主に「FDTD法」と「ビーム伝搬法」があるものの、前者は解析に時間がかかり、計算量の多いマイクロ分光素子の設計には実用的ではないという課題があった。一方の後者は、高速解析を達成することは可能であるが、精度が悪く、色分離の現象を正確に解析できないという課題があった。

そこで今回、空間を光学定数の異なる領域に分類し、その領域ごとにビーム伝搬法を適用することで、反射、屈折、回折などの光学現象を正確に表現できるようにすることで、高速で高精度な解析を実現する光学設計技術を新たに開発したという。同技術は、マイクロ分光素子だけでなく、微細な領域での光学設計に広く用いることができるという特長がある。

また、2つ目のデバイス化技術は、マイクロ分光素子による分光は、光の波長よりも薄い板状の高屈折率材料と、その周辺材料との屈折率差によって発生することに着目した技術で、形状パラメータを工夫して伝わる光の位相を制御し、微細な領域で回折現象を生じさせ、光を色ごとに分離することを可能にした技術。マイクロ分光素子は一般的な半導体プロセスを用いて形成できるほか、その形状を変えることで、光量を失うことなく、光を特定の色とその補色に分離したり、プリズムのように青から赤に渡って分離したりすることも可能だという。

さらに3つ目のレイアウト技術と独自アルゴリズムは、各マイクロ分光素子で分離された光は混合した形で撮像素子の検出面に入射することとなるが、それに対応した画素を最適に配置する技術と、混色した色信号の演算処理技術を組み合わせることで、高感度かつ高精細なカラーの撮影画像を再現することを実現したもの。これにより例えば、光を原色、補色に分離する構造を使う場合、「白+赤」、「白-赤」、「白+青」、「白-青」の4つの色の画素が得られ、演算処理により解像度を損ねることなく通常のカラー画像に変換することができるようになったという。

従来(左)と今回開発された技術(右)の構成比較と特長

これらの技術を組み合わせることで、光利用効率が高い色配置により、従来比約2倍の明るいカラー撮影が可能となるほか、従来のイメージセンサにおけるカラーフィルタの置換えとして設計が可能であるため、イメージセンサの種類(CCDセンサ/CMOSセンサなど)に依存せず適用することが可能になると同社では説明している。

現行のカラーフィルタ技術による撮影画像(左)と、今回開発された技術による撮影画像(右)の比較(いずれも同じ感度のCCDを使用した状態)

なお、同成果の一部は光に関する英国科学雑誌「Nature Photonics」オンライン版に掲載された。