国立遺伝学研究所(遺伝研)は1月30日、バクテリアの形態を決める仕組みにも細胞骨格タンパク質が重要であることを解明したと発表した。
成果は、同研究所 原核生物遺伝研究室の仁木宏典教授、同・比較ゲノム解析研究室の藤山秋佐夫教授、同・生物遺伝資源情報研究室(現・先端ゲノミクス推進センター)の小原雄治特任教員らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、1月21日付けで「WILEY ONLINE LIBRARY」に掲載された。
大腸菌は通常は「桿菌」と呼ばれる形態をしている。このような形態を作るためには、細胞壁、特に「ペプチドグリカン」という堅い構造が正しく合成されなければならない。
抗生物質には、この合成を阻害し、バクテリアを殺すものがある。しかし、これに対して抵抗性を示すバクテリアが近年増加しており、そのためにもペプチドグリカンの合成をさらに理解する必要が生じていた。
研究グループは、これまでに大腸菌の桿菌形態の維持に必要な「RodZタンパク質」を発見し、その機能の研究を続けている。rodZ遺伝子を破壊した株は生きられるものの生育が遅くなることが判明済みだ。また、その形態は球形になってしまう。
研究グループは、生育の遅いこのrodZ欠損株から、元の生育に回復した株を29株単離した。これらは、生育が回復しただけではなく、形態も元の桿菌に戻っていた。rodZ遺伝子は完全に破壊されているので、その機能を補うような突然変異が2次的に自然に起こったものと考えられるという。
これは「抑圧変異」と呼ばれ、rodZ遺伝子の機能と関連する遺伝子を知る手がかりとなる。そこで、次世代シークエンサーを用いて、これら抑制変異株すべての全ゲノム配列の解読が行われた。その結果、比較的容易に29株の抑制変異部位を決定することができたのである。
抑制変異は、「mreB」、「mrdA」、「mrdB」の3つの遺伝子にあった。これらはバクテリアの伸長に必要な遺伝子だ。特に、抑圧変異株の内20株はmreB遺伝子に変異が起こっていた。
さらに、それら突然変異はMreBタンパク質の1つの領域に集中していた。これら変異により、MreBタンパク質は性質を変え、RodZタンパク質がなくても、大腸菌は伸長できるようになったものと推測されている。
また、mrdA遺伝子、mrdB遺伝子の変異によってもMreBタンパク質の性質が変えられていることも判明。通常では、RodZはこれら遺伝子産物、特にMreBタンパク質に働きかけ、大腸菌の形態を正しく保つように指令を伝えているものと推測された。