東北大学は1月25日、高速燃焼炎を用いた「アトマイズ装置」の開発をハード工業と共同開発し、さらに安定した燃焼と酸化の抑制を実現するため岩手大学の協力を得て、鉄基のアモルファス粉末の製造に特化した「アトマイズ法」の開発に成功したと発表した。

成果は、東北大 金属材料研究所 金属ガラス総合研究センターの横山嘉彦准教授(東北大学原子分子材料科学高等研究機構兼務)、岩手大学 工学部機械システム工学科の末永陽介助教らの研究グループによるものだ。

現在、合金粉末を作製する目的で使用されているアトマイズ方法としては、アトマイズの作動流体としてガスを用いるガスアトマイズ法と水を用いる水アトマイズ法に分類される。

アトマイズに必要な高速の作動流体を得るため前者は高圧ガスを用い、法的な安全規制が厳しく、後者は高圧水を用いるため高価な高圧水ポンプが必要となるという、それぞれ短所を持つ。そうした厳しい法規制や高額な設備投資を必要としない、安価な製造方法として、研究グループは高速燃焼炎を用いるアトマイズ法の開発を行っている。

高速燃焼炎の基本構造はHVAFと称されるもので、燃料には安価な灯油を用いる形だ。高速燃焼炎のスピードは秒速1600m程度、燃焼炎の温度は1600℃程度と推察され、高温で効果的なアトマイズの実現が期待できるという。

アトマイズ法の原理として、相対速度の極めて大きい作動流体による溶融金属の引延しと表面張力による切断の行程がある。これらの行程を効果的に起こすためには、表面張力と粘性が小さいことが重要だ。つまり、溶融金属が高温である方が適している。

しかし、一般のガスアトマイズおよび水アトマイズ法では作動流体が高温ではないため、アトマイズ温度の温度低下が問題となり、充分な微粉化を促進することができていなかった。そのため、従来方法では充分な微粉化を実現するために溶融金属の温度を過剰に上昇させるしかなく、耐火材の寿命や操作の安全面に問題があったのである。

その一方で、今回の高速燃焼炎を利用したアトマイズ法は、溶融金属を充分に高温で維持したままアトマイズができることから原理的に微粉末の作製に向いており、シングルミクロンの球状粉を安価に製造することが可能になるものと期待されているというわけだ。

今回の高速燃焼炎方式のアトマイズ装置は、複数の燃焼器を用いたタイプと環状燃焼器を用いた2種類のタイプがあるが、燃焼炎を交差させてアトマイズすることから「カウンターフレームジェットアトマイズ法(CFJA法)」と呼ばれている。画像1は、複数の燃焼器を用いたタイプのCFJA法の模式図だ。このように独自に開発された超小型のL字型バーナーを4台用いてアトマイズを実現している。

画像1。独自に開発された超小型L字型バーナーを用いたCFJA法の模式図

画像2は、同装置の燃焼風景だ。この写真では、4つの高速燃焼器(HVAF:High-Velocity Air-Fuel)を用いて頂角50°の条件で交差させることでアトマイズしている。

4基の高速燃焼炎の燃焼条件はシーケンサを用いて自動制御しており、安定した燃焼炎速度のバランスを維持することに大きく貢献している形だ。画像2に示すように、4本の燃焼炎の交点(写真上端中央の輝点)と交差後の燃焼炎の流れは安定して曲がることなく真下に伸びており、交差後も燃焼炎内部に「ショックダイアモンド」の存在が見られることから充分な高速を維持していることが推察できるのである。

画像3は、この4本の燃焼炎の交点に溶融金属を連続的に供給してアトマイズしている写真だ。溶融金属に起因する明るいオレンジ色の光に広がりが確認できるが、輝度は位置が降下するに従い緩やかに低下しており、輝度の分布もやや横方向に広がっている。

画像2(左)が、複数(4台)の燃焼器による交差後の高速燃焼炎。画像3は、それを用いたアトマイズ風景

アトマイズ法に新たに開発されたこの超急冷プロセスで、かつ乾燥状態での生産が可能な装置を用いて「Fe-2.5Cr-6.7Si-2.5B-0.7C合金」のアモルファス粉末作成が試みられた。

画像4は、粉末のX線回折図形を記したものだ。結晶の存在を示唆する明瞭なブラッグピークは見られず、アモルファス相に特徴的なブロードなハーローパターンのみが得られた。

そして画像5が、粉末の外観である。分級ができていないため粒度にバラつきは見られるが、比較的に良好な球状粉であることがわかり、良好な流動性と焼結後の高緻密化が期待できるというわけだ。

画像4。同開発装置を用いて製造したFe-2.5Cr-6.7Si-2.5B-0.7C合金粉末のX線回折図形

画像5。同開発装置を用いて製造したFe-2.5Cr-6.7Si-2.5B-0.7C合金粉末の走査型電子顕微鏡像。挿入図は拡大像

今回の開発プロセスは、安価に大量の鉄基アモルファス微粉末を製造することを目的に開発が行われた。アモルファス粉末作成時には特殊な冷却装置により、超急冷却することも可能である。

鉄基アモルファス微粉末の応用として軟磁性材料はもとより、精密鋳造プロセスの代替技術として注目されているMIM(Metal Injection Molding)法、溶射被膜などにも応用されつつあるところだ。

研究グループは、これらの分野の研究・開発をより力強く推進していくためにも、粉体製造における新しいプロセスの開発は必要不可欠であると考えているとコメントしている。