リコーが主催している組み込みJavaコンテスト「RICOH&Java Developer Challenge Plus 2012」の最終選考会が2012年1月23日、都内にて開催された。
今回で5回目となり、名称も従来のMFP(複合機)のみを対象とした「Java Developer Challenge」から、対象製品を複合機からレーザープリンタやプロジェクタにまで拡大し、自由な創造力を発揮するステージへとバージョンアップしたということで、「Plus」が付与された形となった。なお、今回も協賛企業として日本オラクルが関わっている。
今大会には、25校29チームが参加。このうち11チームが1次選考を通過し、2012年1月の最終選考へと駒を進める形となった。
その最終選考に残った11チームの学校名/チーム名、システム名は以下の通り(順序は最終選考会での発表順)。
学校名 | チーム名 | システム名 |
---|---|---|
香川高等専門学校 | +U Cool Works!! | 脱☆ウザたんプレゼン |
北見工業大学 | 北見工業大学医療画像研究室+ | pdFX |
東京農工大学 | DLCL | 印刷革命 |
神奈川工科大学 | ボロネーゼ | signagio |
立命館大学 | クマー工房 | εCapture +CMS |
法政大学 | どっくす | どっくすぷれぜんてーしょん |
北陸先端科学技術大学院大学 | JAputa | PickFit |
南山大学大学院 | Cure Nise | CROSS |
関西学院大学大学院 | チーム:ダイコラスタ | &RicoTab |
産業技術大学院大学 | とりぷるS | スマート磨りガラスシステム |
産業技術大学院大学 | JavaC Ricoh.java | レシぴっト |
最終選考では1チーム10分のプレゼンテーションと10分の質問時間が与えられるが、このプレゼン時間は前回に比べ5分短いものとなっており、いかに簡潔に要領を審査員に伝えるかが1つの鍵となる。採点基準としては、従来同様、Javaプログラミングの内容は元より、プレゼンテーション能力、システムの趣旨、システム名など基準とし、12名の審査員(審査委員長がそれぞれの判断に基づいた点数をつける形となっている。審査の配点は、マーケティング視点で70点(新規性20点、完成度20点、市場性/社会性20点、ドキュメント10点)、技術視点で70点(新規性で10点、完成度で20点、ドキュメントで40点)、そしてプレゼンテーションスキルで30点(内容10点、態度10点、タイムマネジメント10点)の合計170点となっており、前回までのマーケティング部分が90点であったのに比べ、より技術視点の部分への配点比率が高くなった。
今回の大会では、従来同様「グランプリ」、「準グランプリ」、「リコー賞」、「オラクル賞」の4賞が優秀チームに授与されたほか、審査員特別賞として昨年の「かわいかったで賞」に続く新たな賞「地球にやさしかっ たで賞」が設けられ、合計5チームに何らかの賞が与えられた。
特別賞
特別賞である「地球にやさしかったで賞」は、東京農工大学のチーム「DLCL」が開発した「印刷革命」(システム名)が受賞した。これは、プレゼンテーション資料などのミスプリントを複合機を使って修正できるシステムで、ミスした資料をスキャナで取り込み、タッチパネル上で文字などの修正を行い、その後、ミスした資料をMFPにセットして印刷を行うことで、手軽に修正を実現できるようにしたもの。「スキャンや印刷といった機能そのものは元からMFPが持つ機能だが、そこに"編集"という付加価値を付けたもの」とチームでは説明していたが、そうした紙にこだわる姿勢が評価された形だ。実際に、審査員も「どこまでも紙にこだわり続け、最後の最後まで紙を活用しようとした姿勢が、現代のエコロジーという意識を表しており、(プリンティング事業を行っている)リコーにとっても重要なことと感じたため」と評していた。
オラクル賞
「オラクル賞」には北見工業大学のチーム「北見工業大学医療画像研究室+」が開発した「pdFX」(システム名)が受賞した。実は、同システム、最終選考会での発表時はうまく動かず、チームとしても入賞できると思っていなかったようで、受賞が発表された瞬間、歓声が起こり、「快挙だ!」と湧き上がっていた。
システムの概要としては、コンピュータ技術の発達により、プレゼンテーションがPDFやパワーポイントを用いて行われるようになったが、ネットワークの発達や新たなIT機器としてタブレットやスマートフォンの登場、そしてUI技術が進化した現在においても、それはほぼ変わっていないことを受けて、Java FX 2.1、Java Servlet、Java Appletを組み合わせてプレゼンテーションソフトを構築し、画像転送サーバから同ソフトを経由することで、サーバやタブレット、PCなどどのような端末からでもプレゼンを実現できるようにしようというもの。また、3D表示なども可能なため、複雑な立体表示物などの提示も容易に行えるようになるのがメリットとするほか、動画などの埋め込みも比較的簡単に行えるため、サイネージ用プラットフォームなどの用途にも転用が可能だという。
審査員としては、発表がうまくいかなかったものの、最新世代のJava FXを活用するなど、Oracleが今後何を目指していて、Javaがどういった方向に向かっていくのか、ということに注目してシステムの開発が行われたことを評価。その結果の受賞となった形だ。
リコー賞
「リコー賞」には、産業技術大学院大学のチーム「javac Ricoh.java」が開発した「レシぴっト」(システム名)が受賞した。同システムはスーパーマーケットと毎日、食事の準備をする主婦に向けたソリューション。食材を買いに行く際、何を作るかは、売り場に行って、各食材の値段を見てから決めるということが多々ある。しかし、人ひとりが持っている料理のレパートリーというのは決して無限ではなく、同じような料理ばかりでは飽きが来てしまうことになる。
そんな時、レジで食材を購入後、その食材が記載されたレシートをAndroid端末(タブレット)で撮影し、クラウド経由でデータをサーバに送信。EvernoteのOCR機能を利用して、レシートから文字を検出し、独自開発したアルゴリズムを活用して、レシート記載の食材を分析し、汎用的な食材名に変換し、それを元に料理レシピサイトであるクックパッドにて購入した食材に最適なレシピを検索。購入者は複数提示されたレシピの中から、これぞと思うものを選択し、それをサービスカウンターのMFPで印刷して持ち帰って、キッチンでそれを見て料理を行う、といったものである。
レシートに記載された食材のほか、追加で冷蔵庫の中にあるものなどを入力して、組み合わせた状態でレシピを検索することも可能だ。また、タブレットでの撮影時には、ガイドが表示されるため、初めての人間でも簡単に撮影することができるように工夫が施されている。
ちなみにタブレットやPCをキッチンに置いて、それを見れば良いのでは、と思えなくはないが、「油や水を使う場所でコンピュータは使いたくない」というニーズがあることも確かで、そういったニーズ調査のほか、アプリデザイン、パフォーマンス、操作の敏捷性、ユーザビリティのテストなどを実際に行っており、ユーザー視点での撮影ガイドや操作ガイドなども、その結果を受ける形で実装したとしている。
審査員からは、「紙しか台所では使えない、という紙がいかに重要であるかがリコーらしさであった」という評価がされていた。
「レシぴっト」の一連の流れ。指示棒で説明をしているのがチームメンバー。産業技術大学院大学は2チームが最終選考会に挑んだが、いずれも社会人大学生のチームであり、他のチームを寄せ付けないプレゼンテーション能力の高さを見せてくれた |
タブレットのカメラを使って、レシートを撮影することで、レシピの検索が可能となる |
そうしたインタフェースもユーザビリティテストなどの結果、何度も改良を加え、使い勝手の向上が模索されていったという |
また、レシートには商品名が記載されたり、略称で記載されたりすることが多いため、それが何の食材であるかを自動的に判別するための独自アルゴリズムの開発も行われたという |
準グランプリ
「準グランプリ」となったのは、関西学院大学大学院のチーム「チーム:ダイコラスタ」が開発した「&RicoTab」(システム名)。印刷機というと紙というイメージだが、現在、さまざまな文書が電子化されるようになってきた。そうした中、複合機はそうした時代の流れに適合できているのか、という疑問のもと、デジタル文書をもっと高度に扱うことを目指し、タブレットと連携させることで、新たな機能を複合機に搭載しようという考えで開発されたシステムが&RicoTabとなる。
コピーやスキャンといった従来機能はもとより、そうした際の簡単な編集(書き込み、塗りつぶし、切抜きなど)、印刷やスキャンのジョブ管理、遠隔ログインなどをタブレット側で実現することで、MFPの前にいるだけでは行うづらい作業などを実現できるシステムで、審査員からは「第4回まではMFPのみを対象にしたが、今回からプロジェクタなども使えるようになり、多くのチームがそうした新しい機器を活用しようとする中で、MFPにこだわったソリューションを開発したことが評価の対象となった」と、受賞理由が語られた。
グランプリ
そして栄えあるグランプリに輝いたのは、産業技術大学院大学のチーム「とりぷるS」が開発した「スマート磨りガラスシステム」(システム名)であった。
同システムはリコーの短焦点プロジェクタと公開されているネットワークAPIをどう組み合わせるかを検討していった結果生み出されたソリューション。プロジェクタの活用シーンを調べていき、行きついたのがデジタルサイネージであり、その適用場所も町の中やオフィスの入り口などさまざまであるが、短焦点プロジェクタを磨りガラスに映すと、きれいに映るということが分かったことから、それを活かす形のシステムが開発された。
現在のデジタルサイネージシステムは、機器の設置や運用コストなどがかかるほか、配信ネットワーク構築などの手間、そして好きな場所に展開できない、といった課題がある。同システムは、磨りガラスをタッチパネル化してデジタルサイネージとして活用するため、立ち上げ時間も5-10分程度で済み、短焦点プロジェクタ以外に追加するデバイスもAndroid端末のみであるという手軽かつ安価さが売りとなっている。
実際の利用シーンとしてはレストランの入り口でのメニュー表示や、アミューズメント施設などでの体感型アプリケーション、デジタルフォトフレーム/スライドショーなどが想定されるほか、災害時には(電力が供給されていればだろうが)、災害対策プラットフォームとしての利用も見込めるという。
確かに発表時のデモの完成度は、ほかのチームと比べて非常に高く、今回の審査委員長を務めた東京大学大学院 情報学環の坂村健 教授も「完成度の高さは審査員全員一致。審査時に、委員の中から社会人学生ということで年齢を懸念する声も上がったが、コンテストという競争であり、社会人学生であっても学生は学生であるということで、今回のグランプリに決定した」と、その完成度の高さを評していた。
常に技術を学び、挑戦し続けることが重要
また坂村教授は、総評として「チャレンジをしていくことが重要。特に学生の身分で、こうしたことに挑める機会は日本では少ない。しかし、海外を見れば、米国などでは政府が音頭をとって実施するものなどもあり、そうした環境で学生たちにチャレンジさせ、その中からイノベーションを生み出そうとしているし、優秀なチームには予算をつけて、技術開発をさせるといったこともしている。これからの日本はそうした真似をしていくかどうかは別として、技術で勝つ必要がある。そのためには失敗しても挑戦していくことが重要。今回、最終選考に残った11チームは、ここまで来たことだけでも十分にえらい。しかし、1番は1チームだけしかなれない。これはどこの世界も同じこと」とし、勝ち負けそのものよりも、挑戦をすることこそが重要であることを強調した。
ちなみに今回の選考会では、筆者も観戦して感じていたが、坂村教授から「プレゼンテーションの練習が必要」という注文がついた。前回のプレゼンレベルが高かった、と言われれば確かにそれまでだし、時間配分が変更された(5分短くなった)、ということもあるにはあるのだが、これまで回を重ねるごとに学生たちのプレゼン能力に磨きがかかってきた様子を感じてきただけに、今回のプレゼンにはどこか物足りなさを感じた。「プレゼンは、論理的に聞いている側に対し、どういうことが行われ、それが従来とどう違っているのか、などを伝えなければいけない。今回のコンテストは、プロジェクタやMFPを活用するものだが、従来はどう使われていて、何が不足していたから、どういったものを付加価値として開発したのか。また、Javaでどういったことを実現したのか、といったことを説明しないといけない。単になんでも良いから作れば良い、という問題ではない」とし、「どこがほかと違ってユニークなのか。研究でも開発でも、例えどんなに小さな点でも他とは違う、ということを説明する必要がある。ほかがやっていることを真似しても意味がない。また、開発者なのだから、どうやって作ったのかを説明する必要もある。どういったシステムなのかは当然だが、それがどれくらいのシステムサイズで、どこにJavaが適用されているのか、などを明確化する必要がある」と、今回のプレゼンに必要であったであろう点を説明した。
ただし、「すべてを自前で開発しろとは言わない。特にネットワークが発達していくこれからの時代では、ネットワークを介して、さまざまな技術が使えるようになってきている。オープンネットワークの時代で全部自前で賄おうというのはナンセンス。そうしたすでにあるものをどうやってうまく活用していくか。利用できるものはどんどん利用していく。リコーもAPIを提供しており、そういった企業側の姿勢も今後、重要になってくる」と、必ずしも開発の際して、すべてを自前で賄う必要はないと指摘した。
さらに、「今回はおじさん、おばさんが頑張った。社会に一度出たかどうかの差が大きく出た。若い人たちは社会人が頑張っている姿を見て、社会に出ても勉強している人たちがいることを知ってもらいたい。学校を卒業したから勉強を辞めた、というのでは駄目。技術は数年で変わる。日本の社会もどんどん変化してくる。東大だって、大学院の方が学部の数よりも多くなってきている。そうした流れの中で、社会に出ても勉強し続ける人たちがいるという姿を見れるのは、学生たちにとっても良い刺激になると思う。何度も言うけど、挑戦して失敗するのは良いが、そこで諦めないで、挑戦し続ける気概をもってもらいたい」とエールを送った。
こうした社会人の頑張りについては、リコーITソリューションズの執行役員会長で、実行委員長の國井秀子氏も「社会人学生チームは、これまで良い所まで行くものの、グランプリを獲得できずにいた。それが今回、ついにグランプリを獲得するに至った。これは日本にとって重要なことで、IT技術が急速に進歩していく中で、社会人になっても教育を受けて、勉強を続けていくことの大切さを示した証。産業界も、そうしたことを推進していく必要がある」と、日本の社会全体で、常に勉強をすることで、技術の進歩に追従していく必要性を強調していた。
なお、リコーでは2013年も継続して、同コンテストを実施していく予定としており、2013年大会も春先ころから概要の発表と、参加チームの募集を開始したいとしている。