医薬基盤研究所(NIBIO)は1月23日、ヒトES/iPS細胞の培養を難しくしている「未分化状態の不安定性」の原因となっているタンパク質が、細胞内のリン酸化酵素「プロテインキナーゼC(PKC)」であることを同定したと発表。PKCはヒトES/iPS細胞の培養に必要な増殖因子「FGF-2」によって活性化され、またPKCを阻害する物質を添加することによりヒトES/iPS細胞が安定して増殖するようになったことも併せて発表された。

成果は、NIBIOの古江-楠田美保研究リーダー、同・木根原匡希特任研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、1月21日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

一般的にヒトES/iPS細胞は、マウス胎児組織由来細胞(フィーダー細胞)を「支持細胞」にして、血清(あるいは動物由来成分を含む代替血)やFGF-2などを用いて培養されている。

培養に関してすべてが解明しているわけではなく、血清などを含む培養条件は、未知の成分や多くの増殖因子を含んでおり、FGF-2の働きにも、未解明な点が残されていた。

さらに、ヒトES/iPS細胞は、非常にストレスに弱いため細胞培養者の通常の操作中に細胞死や細胞分化を起こしてしまい、未分化状態を維持した上で安定して培養することの大きな障害になっていたのである。

研究グループは、ヒトES細胞用にFGF-2を含む最小限の既知の物質から構成されている無血清培地「hESF9」を開発しており、この培地は構成成分が明確なため、培地へ添加した増殖因子の機能や化合物の効果を正確に検証することができるのが特徴だ。

今回は、ヒトES/iPS細胞におけるFGF-2の作用経路を明らかにするため、このhESF9を用いて選択的に酵素を阻害できる数多くの物質の効果の検証が実施されたという次第である。

その結果、FGF-2によって活性化されるPKCがヒトES/iPS細胞の「未分化状態の不安定性」の引き金であることを発見し(画像1)、その働きを阻害すると細胞分化を抑制できることを明らかにした(画像2)。この発見により、PKCの活性を制御することで、未分化状態のヒトES/iPS細胞を大量生産する方法が確立されたというわけだ。

画像1。FGF-2の作用経路

画像2。PKC阻害剤の効果(コロニー形成試験)。PKC阻害剤は、ヒトiPS細胞のコロニー形成を促進する。※赤色に染色された部分が、ヒトiPS細胞のコロニー

今後は、創薬応用に必要な肝臓や神経細胞などのさまざまな分化細胞を大量に生産する技術開発への応用が期待されるとしている。